シエラレオネの宗教と部族 シエラレオネ事務所 松本千穂
西アフリカはシエラレオネのプロジェクト事務所では、私たち日本人スタッフと共に8人のシエラレオネ人スタッフが働いています。
彼らはキリスト教徒とイスラム教徒がほぼ半数ずつ。国内全体では、イスラム教が60%,キリスト教(大半はプロテスタント)が10%,アニミズム信仰が30%と言われていますが、事務所のある首都フリータウンは、解放された元奴隷が欧米などから移住してきて建設したという成り立ちから、全国平均よりもキリスト教徒の割合が多いようです。
シエラレオネのイスラム教徒とキリスト教徒はお互いにとても友好的。スタッフの中にも、自分はイスラム教徒だけど、奥さんはキリスト教徒という人が何人かいます。今年3月の選挙に勝利し新たに就任したジュリアス・マダ・ビオ大統領も、本人はクリスチャンですが奥さんはイスラム教徒。宗教の異なるカップルはシエラレオネでは珍しくないのです。一方、選挙ではイスラム色を強調するスローガンを掲げた候補者がいたのですが、あるイスラム教徒のスタッフに聞くと、宗教ばかりを強調するような人物はふさわしくない、自分の周りのイスラム教徒の間でも不評である、という答えが返ってきたこともありました。
また、官公庁などがお休みになる祝祭日には、預言者ムハンマドの誕生日のようなイスラム教の記念日と、クリスマスなどのキリスト教の記念日がどちらも取り入れられています。先日は、イスラム犠牲祭の前後にメッカを巡礼し帰国したイスラム教徒の人達がビオ大統領を表敬訪問した様子が、テレビで生放送されていました。驚いたことに、キリスト教徒である大統領も一緒にイスラム式礼拝に参加して、その後のスピーチも「アッサラーム・アレイクム(あなたに神の平和を)」というイスラム教徒に共通の挨拶で始めていました。シエラレオネ人が自分とは異なる宗教を信仰する相手への敬意を忘れないことを示す一例と言えるかもしれません。
宗教よりもシエラレオネ人に影響を与えているのは部族かもしれません。人口の約36%が北部に多いテムネ族、33%が南東部に多いメンデ族、他にもリンパ族(約6%)、国内各地に散らばるフラ族(約3%)等がいると言われています。
部族ごとの分布図と、直近2回の大統領・議会選挙での支持政党を見比べると、北部と南部の違いがはっきりと判ります。APC(All Peoples Congress、全人民会議)は北部で、SLPP(Sierra Leone People’s Party、シエラレオネ人民党)は南部で支持されていることがはっきりと見て取れます。そして、今年3月の選挙でこの2大政党が立てた大統領候補者は、SLPPが南部のシェルボ族、APCが北部のテムネ族(と同地域の少数民族の混血)で副大統領候補はどちらもフラ族でした。
選挙の際に何人かのシエラレオネ人に聞いてみましたが、候補者がどの部族・地方の出身かという点は極めて大きな判断要素だそうです。同じ部族や近隣の身近な部族には親近感・信頼感がある一方で、違う地方の部族を信用することにはかなり慎重なようです。
私たちの事務所のスタッフはフラ族3人、テムネ族2人、メンデ族・リンバ族・コノ族が1人ずつと多様性に富んでいます。北部で2県、南部で2県を主な対象にしたプロジェクトですので、それぞれの県で効果的な活動を実施するために欠かせない頼もしい同僚たちです。
スタッフブログ「シエラレオネで感じる経済学 (1)通話料売りの機会費用」
理事長ブログ「うみがめ便り~X局長の死」
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