理事長ブログ「うみがめ便り~ウイルスの蔓延と夏の到来~」
ウミガメは大海を回遊している。移動距離も長く、2月に西アフリカに到達後、3月初旬に日本へ戻る旅路に就いた。喜望峰を回りながら、特殊な磁気誘導装置を使って、南氷洋の天空に投影された世界の様子を眺めていた。防護服に身を包む医療従事者、封鎖され人影を失った街、乗客が激減した空港や鉄道駅のホーム、マスク姿の人々、在宅勤務に苦慮する人々、ギリギリの決断を迫られ、メディアと対峙する各国首脳の姿等々、新型コロナウイルスの感染とその対策を象徴する映像がオーロラカーテンの上を流れていった。
日本に目を向けると、中国武漢市に滞在歴のある最初の感染者が確認されたのが1月15日。その後2月3日に横浜港に入港したダイヤモンドプリンセス号の船内でCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の集団発生が起き、その対策の一挙手一投足に注目が集まった。そして2月上旬~中旬にかけて雪まつりが開催された札幌市を中心に感染者が急増した北海道では、知事が2月末に自治体で最初となる緊急事態宣言を発令した。その後市中感染はほぼ全国に広まり、5月中旬の時点で約1万6千人の感染者と約700人の死亡が報じられている。
肉親や著名人の訃報に接し、悔しさに涙をにじませる人々の姿も映し出された。発熱しても検査を受けられず自宅で寝込む以外に方法がない人々、またインバウンド旅行者の減少、オリンピックの延期、長期にわたる移動や経済活動の制限などにより、生計の柱を失った人々も日ごとに増加している。その一方で、インターネット利用が加速し、仕事の進め方や学習方法が変わり、巣ごもり生活に対応した新しい娯楽や室内活動が開発され、また受発注を容易にするアプリを活用して消費行動が変化するなど、新機軸が確立された分野もある。
大海を移動していると、必ず暴風雨に遭遇し、荒れ狂う波と海面を叩く大雨に行く手を阻まれるが、いずれ止むことは自明の理である。適切な避難場所を見つけ、再出発に備えて体力を強化できれば、退避は好機となり、今後の旅路にポジティブな変化や付加価値をもたらすはずである。
日本に留まっている間、卒業式や入学式/入社式のない春が終わりを迎え、初夏さえも過ぎ去ろうとしている。この間、人間の干渉を受けずに桜は静かに咲き、人知れず穏やかな風とともに散っていった。今、コロナに翻弄される街に新緑が活気を与え、つつじが道路脇を彩る。間もなく、日本は梅雨と夏本番を迎える。新型ウイルスは、季節の変化と気温上昇にどう向き合うだろうか。
理事長ブログ「うみがめ便り」の他記事はこちらからご覧いただけます。