ネパールの「お茶の時間」のいま、そしてこれから
海外事業運営本部 小林麻衣子

2021/08/17

みなさん、ナマステ(こんにちは)。
 
我が家の朝は、一杯のチヤ(=ネパールのミルクティ)から始まります。ネパール人の夫が日本で暮らし始めて2年、コーヒー好きの私の影響でだいぶコーヒーも飲むようになりましたが、朝はやっぱり、しょうがとスパイスをたっぷりきかせ、牛乳でくつくつ煮出したチヤの方がお好みのようです。
 
ネパール人にとってのチヤは生活に欠かせないもののひとつで、ネパール国内でどこへ行こうともたいてい小さな茶店があって、使い古した片手鍋でこっくりするまで煮出したチヤを、小さなグラスになみなみ注いで出してくれるものです。それをちびちびとすすりながらたまたま居合わせた人と世間話に興じるのが、ネパール的「ていねいな暮らし」なのだともいえるかもしれません。
 

昔ながらの茶店。ドーナツやサモサ(香辛料で味付けしたジャガイモが入った揚げギョーザのようなもの)は定番のお茶請け。チヤは1杯20円。(2016年撮影)

 
そんなネパールの暮らしにも、ここ数年で変化を感じるようになりました。かつては外国人観光客しか訪れなかったカフェで、ネパール人の若者がスマートフォンを片手にくつろいでいる姿が見られるようになり、首都カトマンズから地方へ向かう幹線道路沿いにエスプレッソマシンを備えた小さな「茶店」まで現れ始めました。国内のコーヒー消費が増加傾向にあることは、2007年に約2.2トンだったコーヒーの輸入量が、2017年には163トンにまで増えていることからもよくわかります。
 
カトマンズから約30km離れた地方都市に開店したカフェ。エスプレッソ1杯は約80円。(2019年撮影)

 
実は、ネパールはもともとコーヒーの産地でもあるのです。ヒマラヤの麓の大自然に育まれたアラビカコーヒーは、欧米では高い評価を得ています。ネパール政府は、零細農家の収入向上の手段としてコーヒー栽培を推奨しており、生産量も輸出量も年々伸びてきています。ただ、せっかく質の高い豆が自国で生産できるのに、そのほとんどが海外への輸出用。実際、かつてアムダマインズが事業を実施していたダディン郡のコーヒー農家からは、「コーヒーチェリー(実)の栽培をしているけどコーヒーは飲んだことがない」という声を聞きました。その一方で、「コーヒー好き」を自称する若者たちが飲んでいるのは、わざわざ海外から輸入した安い豆。なんだかもったいないなぁ、と思ってしまうのです。
 
ダディン郡のコーヒー農家。すべて手作業で精製する。(2016年撮影)

 
コーヒーは、産業が乏しいネパールにとって経済発展のための希望の光になる可能性を持っています。でも、それだけではなく、ネパールの人々が自国のコーヒーの味に誇りを持ち、コーヒーを片手に世間話に興じることが日常になるくらい、ネパール独自のコーヒー文化が育まれていくことを願う今日この頃です。
 
 
 

小林麻衣子(こばやしまいこ)
海外事業運営本部 プログラムコーディネーター

外国語の学習が好きで、大学ではヒンディ語を専攻。バックパックを背負って毎年インドを訪れる。大学院を休学して長期滞在したインド・ビハール州の農村で、村の人たちと生活を共にしたことが「地域開発」に興味を持つきっかけに。国際学修士を取得後、青年海外協力隊員としてスリランカで活動。2008年にAMDA-MINDS入職後は一貫してネパール事業に携わる。趣味はコーヒー。栽培と焙煎にも手を出しつつある今日この頃。岡山のお気に入りスポットは、玉野市から倉敷市児島に向かう海沿いの国道430号線。岡山県出身。

 
 

 
 


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