より良い未来のために
ミャンマー事務所 ティーダ

2025/01/23

ミャンマーのメティラ郡よりご挨拶申し上げます。いつも私たちの活動をご支援いただきありがとうございます。
 
今回は、私が現場の責任者として取り組んでいる「生計向上プロジェクト」の現状をご報告したいと思います。
 
この事業は、1998年にマイクロファイナンス(少額の資金を無担保で融資する仕組み)のサービスを試験的に2つの村で開始したことから始まりました。日本からの支援を元に、2001年1月には正式な事業として開始し、現在はメティラ郡内の65村で、約2,700名にのぼる貧困層の女性メンバーを対象にサービスを提供しています。
 

スタッフが定期的にメンバーの村を訪問し、融資のやり取りを行う

マイクロファイナンスのサービスを提供する組織は、「マイクロファイナンス機関」としての認可取得が義務づけられており、低所得者や銀行口座を持たない社会的弱者が必要とする金融商品を開発し、低コストで容易に利用できるサービスを提供することを業務としています。
 
「生計向上プロジェクト」に参加しているメンバーの世帯は、主に農業、畜産業、販売業を営んでいます。私たちは、金融サービス(融資、貯蓄など)と非金融サービス(金融教育)の両方を提供しています。メンバーのニーズに合わせ、融資額や返済期間と回数などを話し合って決定します。そして、メンバーが融資を活用してビジネスに必要な原材料(例えば農業なら種や肥料、畜産業なら子豚など)を準備、投資することで、適切な収入を得られるよう支援します。その結果、メンバーは融資を返済するだけでなく、さらにビジネスを拡大するための借入を続けることができ、持続的な生計の向上につながっていきます。
 
融資の申し込み手続きを受け付けるスタッフ

これまで融資の返済率は、ほぼ100%を続けてきました。しかし、2020年から新型コロナウイルス感染症が流行したことを受け、政府によるロックダウンなどの行動規制が始まり、業務が中断し、メンバーも一時的に返済することができないという事態が生じました。
 
その後、コロナ禍はひと段落しましたが、ミャンマー経済は今もさまざまな制約を受けており、物価が急上昇し、電力や資材なども不足しています。また、灌漑設備が整備されていないので、農業生産が天候に大きく左右される地域では、農産物の生産がうまくいかず、販売にも影響が出ています。メンバーはもともと社会的に弱い立場にある人たちなので、物価の上昇、不安定な経済状況、気候の変化などの外的要因により、生活はすぐ困難に直面してしまいます。
 
このような困難な状況下でも、多くのメンバーは自らの力で、問題を解決しようとしています。これまで続けてきたビジネスに加え、例えば、美容院やバイクタクシーの運転手、自然の植物を採集して家畜の餌として売るなど、新たな収入源を見出そうとしています。
 
そうした努力の結果、返済が遅れた人の割合は、最も高かった46%(2022年6月末)から13%(2024年10月末)にまで減少しました。また、事業対象の約55%の村では100%の返済率を維持できています。
 
新しい収入源を得るために、それまでとは別のビジネスを始めたメンバーの一人をご紹介します。
 
竹かごを編むエイさん

カイタイパウク村に住むエイさんは、2007年からメンバーとして活動しています。彼女は49歳で、夫と5人の娘がいます。
 
参加した当時、彼女は野菜販売の仕事をしており、夫はヤシの木を扱う農家でした。彼女は夫が仕事中にヤシの木から落ちて怪我をすることを心配していました。そこで夫に竹かご編みを習うように頼み、仕事を変えてもらいました。エイさん自身も野菜販売の仕事を止め、夫の竹かご編みを手伝い始めました。
 
彼女が「生計向上プロジェクト」から融資を受けた資金で竹を買い、家族で1日に10個の竹かごを作り、業者に卸しています。学校が休みの日には、子どもたちも手伝って、1日に20かご仕上げることもあります。竹1本で1かごを作り、1かごあたり2,300チャット(現在の為替レートで約82円)の利益を得ています。
 
適切な収入を得ることで、娘たちに教育を受けさせることができるようになり、新しい家を建てることもできました。今後は、さらにビジネスを拡大して、竹かごの販売所も開く予定です。このように、メンバーの家庭が幸せになっていくのを見ることは、私たちにとっても、本当にうれしいことです。
 
エイさんの自宅前でご家族と一緒に

ミャンマーの経済危機は、物価高騰などの不安定な状況を引き起こし、私たちの事業運営にも影響を及ぼしています。融資の返済遅延に対しては、スタッフがメンバーと話し合いを続けるなど、辛抱強く対応しています。また、物価高騰に対しては、なるべくコストを削減して、効率的な事業運営となるよう努めています。私たち自身もこうして困難を乗り越えようとしています。
 
ミャンマーでは、多くの困難が続く中、メンバーも運営する我々も、双方で最善を尽くしています。マイクロファイナンスの事業は、その性質上、様々なリスクを負っていますが、私たちはそのリスクを管理する努力によって、持続可能な事業の実現を目指しています。
 
 

この記事を書いたのは
Thida(ティーダ)
ミャンマー事務所 生計向上事業責任者


マンダレー大学数学科を卒業後、生まれ故郷でボランティア教師として活動する中で、地域社会のソーシャルワークに関心を持つ。民間の金融会社に4年間勤務した後、(当時)無料で医療サービスを提供していたAMDAグループの活動に興味をもち、1999年5月に入職。25年にわたり、生計向上プロジェクトに携わる。趣味は、旅行とおしゃべり。

 
 

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