家族の思い出をたどる ~国際家族デーに寄せて~ 海外事業部/白幡利雄
毎年5月15日は「国際家族デー」です。といっても私を含め、日本ではあまり知られていませんよね。母の日が近いからなのか、5月5日の子ども日と日付がまぎらわしいせいなのか、はたまた…???
各国が家族問題に対する認識を高め、家族関連の問題に取り組む能力を高めるため、国連総会で1993年に定められたという、この「国際家族デー」に際し、ちょっと自分の家族との思い出をたどってみました。
私はこれまで、他の団体も含めて22年ほどをNGOの職員として過ごしてきたのですが、その間に結婚し、2人の男の子を授かりました。期間や家族構成はそれぞれ異なるものの、アメリカ、バングラデシュ、ネパールの3ヵ国で家族と生活をした経験があります。数えきれないほどの思い出がありますが、すぐに頭に浮かんだエピソードを2つ、ご紹介したいと思います。
一つ目は14年前のアメリカでの出来事。大きな国際NGOで三ヵ月間インターンをするため、当時1歳5ヵ月だった長男と妻の3人でワシントンDCにいたのですが、妻の知り合いの家にホームステイさせてもらった最初の夜のこと。ちょっと懐かしい、アメリカのホームドラマによく出てくるような広い玄関と裏庭がある二階建ての木造住宅。私たちは2階の客室をあてがわれました。大きなダブルベッドがあり、ここで家族3人(次男はまだ生まれていません)、一緒に寝るのだなと思っていたら、大間違い。「子どもはこっち」と言われ、ちゃんとベビーベッドがしつらえられた部屋を案内されるではありませんか。アメリカではおっぱいを卒業したら、あるいはその前からでも、両親と子どもは別々の部屋で寝るのが一般的とのこと。どんなに反論しても「夫婦の寝室には子どもを入れないもの。一度入れたら、くせになるわよ」、の一点張り。しかたないので、さっそくその日の夜からアメリカ式に挑戦してみることに。
妻が寝かしつけ、そーっとベビーベッドを離れ、静かに子ども部屋の扉を閉めます。でもしばらくすると、息子は目がさめて泣きだします。何度か同じことを繰り返すのですが、やっぱりダメ。泣き声がすぐ隣から何度も聞こえてくるのは、本当にせつないものでした。親と子が別々に寝るということについて、アメリカでもいろいろと議論はあるようですが、親子が川の字になって一緒に寝るのがまだまだ多い日本とは、子育てに関する考え方に大きな違いがあることを、身をもって知る機会になりました。
二つ目は、息子たちの感染症。長男はバングラデシュで11年前、次男はネパールで5年前に、それぞれ赤痢にかかった時のことです。コレラ、腸チフス、赤痢などは、日本では法定伝染病に指定され、患者が発生しただけでニュースになってしまいますが、現地では、いわば「普通の病気」。よほど大量に発生しない限り、話題にもなりません。幸い、赤痢にはよく効く抗生剤がありますので、それを点滴といっしょに入れることで、比較的すぐに快方に向かうことができましたが、世界中どこであっても子どもが適切な処置を受けられ、元気に暮らすことのできる環境が大切だということを痛感させられました。
私はいま、海外事業のスタッフとして、ミャンマーでの事業を担当していますが、現地では家族のメンバーそれぞれが健康で、明日への希望をもって毎日を生きられるよう、様々な支援をしています。また私たちは、つい先日起きたネパール中部地震の被災者への緊急支援も行っています。余震に怯える人々の気持ちを想像する時、私は息子たちが赤痢にかかった時の不安な気持ちを思い出します。みなさんも、この機会にちょっと立ち止まって、自分の家族の思い出をたどり、そして途上国の人々にも同じような家族がいることに、思いを馳せてみませんか?