ボー市の思い出(前編)~夕闇と、食べ物の香りと~ / シエラレオネ事務所 西野義崇

2016/11/21
大西洋に沈む夕日
大西洋に沈む夕日
露店の焼き肉
露店の焼き肉
七輪で焼かれるキャッサバ
七輪で焼かれるキャッサバ

西アフリカの小さな国、シエラレオネ。かつてここで凄惨な内戦があったとは思えない、長閑な国。今日も椰子の木の向こう側の大西洋に真紅の夕日が沈む。シエラレオネは、アラビア語で「日が没する所」を意味するマグリブ地域の西端と経度はほぼ同じである。この国の人々も、おそらく、マグリブ地域との交流の中でイスラム教を受け入れていったのだろう。

私は普段は首都フリータウンにいるが、地方での活動のため、時折、内陸にあるボー市に滞在する。同国第二の都市ではあるが、フリータウンに比べればずっと小さな町だ。道を走る自動車の数は少なく、代わりに無数のオカダ(バイクタクシー)が道路を闊歩している。ただ、それでも多くの商店が軒を連ねており、都市部から離れた村に比べれば活気溢れる土地であることに違いは無い。

夜になると、街頭のテレビではサッカーの試合が中継されており、テレビの周りには人だかりができる。戦後日本の街頭テレビのようだ。シエラレオネの人々は、プレミア・リーグをはじめとしてサッカーが大好きだ(注)。かつてイギリスの植民地だった影響もあるのかもしれない。薄明かりの中、露店ではランプに火を灯し始め、鉄板の上で焼かれる牛肉の香りが漂ってくる。ほんの少し混ぜられた玉ねぎと唐辛子のソースがアクセントだ。別の場所では七輪でキャッサバが焼かれていた。芋のような食感であり、甘くはない。焼いている金網はよく見ると、扇風機の金網である。シエラレオネの人々は、時に、このように固定観念に捉われない、クリエイティヴな発想をする。方や、11月ともなると、露店では皮をむいたオレンジが売られており、爽やかな香気が夜を彩る。

「万のものの綺羅・飾り・色ふしも、夜のみこそめでたけれ。昼は、ことそぎ、およすけたる姿にてもありなん。夜は、きらゝかに、花やかなる装束、いとよし。人の気色も、夜の火影ぞ、よきはよく、物言ひたる声も、暗くて聞きたる、用意ある、心にくし。匂ひも、ものの音も、たゞ、夜ぞひときはめでたき。」(徒然草 第191段より)

2013年11月にこの町を訪れた時、私はとあるホテルに泊まっていた。

後編に続く)
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(注)地上波よりも衛星テレビが普及しており、ホテル、レストランなどに設置されているテレビではこうしたスポーツ中継や、BBC、CNNなどのニュースも見られる。