知識から実践へ~寄り添い続けるミャンマースタッフ
海外事業運営本部 白幡利雄

2021/12/23

ミャンマーでは、2020年3月に国内で初めてとなる新型コロナウィルス感染例が発見されてから、これまでに3つの大きな波がありました。もっとも大きかったのは今年、2021年6月から8月頃まで続いた第三波で、いわゆる「デルタ株」の急速な広がりを受け、なんと7月中旬からおよそ2か月にわたって全国が公休日となるなど、日本では考えられないような対策がとられていました。
 
こうしたコロナ禍に加え、2月に起きた政変と非常事態宣言の発令が重くのしかかり、国全体が混乱状態に陥っているミャンマーですが、人々の生活を支えるため、私たちアムダマインズの現地スタッフは、できることを地道に続けています。今回はそんな現場の最近の様子をご紹介したいと思います。
 

シャン州ラショー郡における母子健康改善プロジェクト

「体重の増え方がちょっとだけ緩やかなようですね」
 
コロナ第三波がある程度落ち着きを見せ、村での活動を再開したばかりのコンパウン村で、子どもの身長体重測定にきた女性に対し、スタッフがこう優しく声をかけました。
 

ミャンマーでは、吊り下げ式の体重計で子どもの体重を測るのが一般的。持ち運びも楽で、平らな場所がない所でも利用できるメリットがあります。

 
18歳の母親にとって初めての子どもだという1歳半の男の子は、4か月前と比べて体重が十分に増えていなかったのです。そこで、スタッフはすぐにその子の家を訪問し、詳しく話を聞いてみることにしました。栄養不良の可能性がある子どもを見つけた場合、個別訪問を通じてフォローアップすることにしているからです。
 
すると、男の子は2日前から熱があり、ほとんどご飯を食べられていないということが分かりました。ショウブの一種と思われる植物の根を煎じた湯を飲ませるという伝統療法は施されていましたが、十分な効果が得られていないようでした。
 
個別訪問での会話は、現地スタッフの腕の見せ所。何気ない会話から健康問題の根っこが見つかったり、解決の糸口が見えてきたりします。

 
そこでスタッフは、それまでの対応は否定せずに、栄養のあるものをきちんと食べさせることが大切だとアドバイスをし、改めて具体的な食材の説明をしました。その後、看護の知識をもつ住民の協力も得た母親は、子どもに解熱剤を飲ませつつ、栄養豊富な食事を与える努力を続けました。その結果、数日後には無事回復したとのうれしい連絡が、スタッフのもとにあったそうです。
 
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行政とコミュニティとの連携を通じた保健サービス利用推進事業

妊産褥婦や新生児が毎日を健康に過ごすために必要な知識を、村人に分かりやすく伝え、そして効果的に覚えてもらうために、どんな方法があるだろう?
 
活動を進める際、現場では常にこうした問いに対する工夫を重ねています。簡単なイラストが描かれたカードを用いたゲームを研修に取り入れることで、参加者が楽しみながら学ぶようにするということも、その一つです。9月から開始した研修では、産前産後健診の大切さや妊娠期・産褥期・新生児期にすべきこと、してはいけないことなどをテーマとし、11月末までに1,225世帯の参加を得ています。
 

カードはスタッフのお手製。描かれる人物の服や髪型は参加者に馴染み深いもので、野菜や果物の絵は地元でとれるものを中心に描くことで、参加者の理解が進みます

 
例えば、産褥期にすべきこと・してはいけないことについては、地域の伝統的な習慣である「産後、女性はたき火のそばで過ごし、汗をかくべき」という内容のカードを混ぜておきます。すると、参加者の多くはこのカードを「すべきこと」として選びます。そこではじめてスタッフから、汗をかかせるような行為は脱水を招く恐れがあること、女性は産後、体力を回復すべき時期にあるため、休息が必要なことなどを説明するのです。
 
こうして正しい知識を得た研修参加者は、その後、自分の住む村で他の住民に学んだことを伝えたり、自ら実践したりするようになります。そしてスタッフは、今日も村人の生活に寄り添い続けています。
 
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この記事を書いたのは
白幡利雄(しらはたとしお)
海外事業運営本部長


学生時代に手話を学んだこと、NGOの存在を知ったことをきっかけに、世界をより良く変えることを一生の仕事にしたいと決意。教育学修士号取得後、日本の国際協力NGOに就職。約21年間、東京事務所で海外事業全体のコーディネーションを担当した他、バングラデシュとネパールに事務所長として駐在。2014年にAMDA-MINDS入職。2020年から現職。趣味は読書と映画鑑賞。岡山のお気に入りスポットは西川緑道公園。東京都出身。