カブレパランチョウク郡での事業を振り返って ネパール事務所 奥田鹿恵子

2020/01/28

カブレパランチョウク郡で取り組んできた事業が、2019年11月に終了しました。
 
振り返れば、現地のパートナー団体であるSAGUN(サグン)と出会い、事前調査を行ったのは2013年のこと。農業をしながら自分たちが毎日食べていくことに精いっぱいで、医療費や子どもの学費、行事のために借金をして、働き盛りの男性は都市部や海外へ出稼ぎに・・・。そんな状況を改善しようと、農業で収入を得ることを目指して始めたのがそもそもの始まりです。
 
事前調査を終えた翌2014年、事業運営にまだ慣れていないスタッフや、支援が本当に何か変化をもたらしてくれるのか半信半疑でいた村人たちと、まずは信頼関係を築いて気持ちを一つにすることから取り組みを始めました。そして生計向上を目指し「さあ、いよいよこれから!」という時に起きた2015年の大地震。事業地の9割以上の家が倒壊する甚大な被害を受け、ガレキの下敷きになり亡くなった村人もいました。薬、仮設住宅用のビニールシートやトタンなど、とにかく緊急に必要な物資を配布することに必死な毎日が続きました。事業を続けるべきかどうか、正直、迷いました。心身ともに疲れ、希望も絶たれてしまった中、それでも事業を続けようと言ってくれたスタッフと村人たち。一緒に沢山泣きました。でも、前を向いていかなければと、お互いに励まし合いながら次の一歩を踏み出しました。
 
その後は農業を中心に、住居再建、保健衛生、教育環境整備、環境保全と、震災復興につながる生活改善のための包括的な活動に取り組んできました。日本人農業専門家の力も借り、肥料やビニールハウス、支柱、防虫対策、マルチング*などの知識と技術の普及に成功し、栽培技術が向上した他、灌漑設備を4つの集落に設置したことで、水へのアクセスが改善されました。さらに、農業グループの組織化により、共同生産・出荷が可能となり、中間業者との交渉力が強化され、新規販路の開拓につながりました。これらの結果、事業開始前の約3倍にあたる世帯が、今まで栽培経験がなかったブロッコリーやインゲン、キャベツ、トマトなどの換金作物を栽培・販売し、新たな農業収入を得られるようになりました。今では野菜だけでなく、アボカドやコーヒーなど、新たな作物にも挑戦中です。
 

ビニールハウスやマルチングを導入して生育が良くなったと言うジャヤラム・ヤスマリさん

 
私はこの事業を始めた当初から携わっていたわけではありませんが、活動による成果を心から実感しています。「もう村の外に出稼ぎに行く必要はないよ。農業で稼ぐことができるからね。」こう話してくれたのはサジン・タマンさん。収穫量や収益と言った数字の背景には、村人一人一人の自信と希望が見られます。
 
事業終了時調査でインタビューを受けるサジン・タマンさん(右から2番目)

 
今回、一つの事業が終わるという節目を初めて経験したことで、国際協力NGOとしての支援のあり方について改めて考えさせられました。支援を無期限に続けると住民が援助に慣れてしまい、かえって自立を妨げます。また、私たちの活動資金も限りがありますので、一つの地域を永遠に支援し続けることはできません。かと言って、どこで支援を終わらせるのがベストなのか。正直、私にはまだどうすればいいのかは分かりません。
 
事業地を最後に訪問した日、「心配しないで。私たち農業グループはしっかりしているんだから。これからは私たちだけで頑張っていくわ」と言ってくれた村人の言葉に、後ろ髪を引かれる思いで、涙ながらに強く握手をしてお別れしました。彼・彼女たちはきっと上手くやっていけると信じています。
 
今まで多大なご支援をいただきました皆さまに心から感謝を申し上げます。そして、共に事業を行ってきたスタッフと村人たちにダンニャバード!(ネパール語で「ありがとう」)
 
事業最終日に対象村を訪問する筆者(左)。スタッフや村人と記念に撮影した写真を見てにっこり。

 
*マルチングとは、畑の表面をプラスティックフィルム等で覆うこと。雑草や病害虫の発生を防ぐ等の効果がある。
 
 
ネパールプロジェクトの紹介はこちらから
 
ネパールのスタッフブログはこちらから