追い風を味方に~2年目を迎えた母子健康格差是正に向けた取り組み(ネパール) 海外事業部 竹久佳恵

2020/03/19

インドと国境を接するタライ平野に位置するダン郡ガダワ地区で取り組んでいる「母子健康格差是正事業」が2年目に入りました。

事業2年目の贈与契約書を交わす西郷正道駐ネパール大使(右)と奥田(AMDA-MINDSネパール事業統括代行)

ネパールでは近年、妊産婦死亡率などの母子保健指標が改善傾向にありますが、依然、南アジア内でも高い数値を示しており、今後、いかに国内(例えば都市と地方間、民族・カースト間、貧困層と富裕層間など)の母子健康格差を是正していくかが鍵を握るとされています。
 
首都カトマンズから南西方向に400キロ以上離れた場所に位置するガダワ地区もまた、母子の健康格差が顕著な地域の一つで、例えば妊産婦健診受診率は3.7倍、予防接種率は1.5倍の開きが生じています。ガダワ地区は岡山市の半分程度の広さしかないため、例えば岡山市A区では74%の妊婦が妊婦健診を受診しているが、隣のB区では20%の妊婦しか健診を受診していない、という状況におかれていることになります。このような格差の存在は、日本では考えられないことです。

ガダワ地区で出会った子どもたち

そこでAMDA-MINDSは、保健医療施設の整備、保健人材の育成、地域での保健啓発を3本柱に、母子の健康格差是正に取り組んでいます。
 
1年目は、地域住民が最初に受診するヘルスポスト(診療所)で不足していた医療資機材を提供したことで、地区内すべてのヘルスポストがネパール政府保健・人口省の資機材規定を満たすことができました。また、関係者から高い要望が出ていた研修(例えば、ヘルスポストスタッフ対象の「家族計画とカウンセリング研修」や、保健ボランティア対象の「コミュニケーションスキル研修」など)を実施し、「若年妊娠のリスクや避妊方法は理解しているつもりだけど、患者さんにどう対応すべきか分からない(ヘルスポストスタッフ談)」「村の女性に保健啓発をしなきゃいけないけど自分の経験にも知識にも自信がないの(保健ボランティア談)」といった声に応えることができました。その他、ガダワ地区内で活動する母親グループ全85グループ(メンバー約1,300人)に対する保健啓発を行うとともに、その母親らと一緒に様々な啓発キャンペーンも実施しました。

家族計画とカウンセリング研修の様子

ところでネパールでは、2015年に公布された新憲法に基づく地方自治体制への移行に伴い、保健セクターでも行政改革が進められており、私が初めてネパールの母子保健プロジェクトに関わった10年前に比べると、地方の様相も大きく様変わりしています。例えば、ヘルスポストに地区予算で雇用された臨時職員が配置されていること、ヘルスポストスタッフの住居棟が新たに建設されたこと、携帯電話を持つ村のお母さんがちらほら見受けられるようになったこと、僻地と言われる集落にも道路が整備されつつあることなどなど。数え上げればきりがありません。

ガダワ地区内12箇所に設置した啓発看板。「妊婦健診は4回必要であること」「妊娠中に気を付ける4つのこと」を真ん中の4本指と組み合わせてより分かりやすく表現

このような変化が、母子の健康格差是正の大きな追い風になることは、容易に想像できます。地元の言葉(多民族国家のネパールでは、異なる言語を使う民族が少なくありません)で話せ、地元のことをよく知る人がヘルスポストにいることで、地域の人にとっての「身近さ」は増すでしょう。人事異動先でもきれいな住居棟に暮らせるのなら、ヘルスポストスタッフのストレスも緩和され、よりよいサービス提供につながるでしょう。携帯電話があれば、「予防接種の日っていつだったっけ?」なんてママ友同士の情報交換も進むでしょう。森の中やあぜ道を1時間歩かなければならなかった妊婦健診会場までの道のりも、道さえあれば、自転車で10分で行けるのです。
 
他方で、この追い風は必ずしもすべての人に吹くのではなく、追い風から取り残される人や地域が出てくるのではないかと、スタッフは危機感を募らせています。せっかくの追い風が格差の広がりや深刻化につながらないよう、ニーズのより高い人や集落を見極め、どのようにきめ細やかなアプローチができるか、この原稿がウェブサイトに掲載される頃に予定されている「プロジェクト2年目の戦略会議」で話し合われる予定です。
 
追い風を味方に、NGOならではの機動力を武器に、2年目を迎える母子健康格差是正プロジェクトのこれからを、ぜひ応援してください。

村で記念撮影。笑顔の村人とスタッフたち

ご支援のお願い

保健ボランティアさんの活動に必要な自転車が不足しています。1台1万円で、50台必要です。自転車がない保健ボランティアさんは、母親グループの会合や、ヘルスポストまで歩いて行って活動しています。ご支援をよろしくおねがいします。ご協力頂ける方はこちらからお願いします。