コミュニティみんなで母子の健康を守ろう~芽生えた新しい意識~
海外事業運営本部 林 裕美

2020/05/18

グアテマラで2年間実施してきた「コミュニティ母子保健向上プロジェクト」が、2020年2月に終了しました。事業対象地となったキチェ県サン・バルトロメ・ホコテナンゴ市は人口の98%が先住民族で、人々は独自の言語を話し、伝統的な文化を大切にして生活しています。私たちのプロジェクトは人々に何を伝え、何を前に進めることができたのでしょうか。
 
この地域では、出産は伝統的産婆とともに自宅で行うのが一般的です。それゆえに緊急事態が起こった際の対応が難しく、出産はまさにいのちがけでした。安全に出産するためには、リスクをできるだけ減らしておくことが重要です。そのためには保健医療機関で健診を受け、リスクを把握しておくことが必要なのですが、妊婦の中にはそのことを知らなかったり、また本人が行きたくても家族の理解を得られず、保健医療機関を訪れることのできない人もいたりしました。
 
そこで、本事業では4つのことに取り組みました。
 
1つ目は、妊婦が頼りにしている伝統的産婆への研修です。産前健診の重要性、妊娠中・出産中の危険兆候や適切な施設への搬送などについて伝え、伝統的産婆から村の妊婦たちへそのことを伝えるとともに、実際に保健所へ行くよう促してもらいました。

伝統的産婆研修の様子。妊婦の触診方法を確認しています。

2つ目は、市内の約半数にあたる15村での保健ボランティアの育成です。彼らを通じた村民への保健教育を促しましたが、伝統的産婆との違いは、対象を幅広い村民としたことです。
村民への保健教育。保健ボランティアが授乳の仕方を伝えています。

3つ目は、行政(保健所、市役所、村長など)と住民が課題を共有する場の設置。そして4つ目は、妊産婦が保健所を利用しやすくするための環境整備です。医療用器具や備品の提供、研修棟の建設を行いました。
新設された研修棟で保健所長の話を聞く伝統的産婆たち。

 
伝統的な暮らしや考え方に配慮しながら、地道な活動を2年間続けてきた結果、事業が目指してきた「コミュニティみんなで母子の健康を守る」ための土台が形作られました。伝統的産婆たちは妊娠・出産に関する正しい知識を得て妊婦に伝えるとともに、危険兆候を見極め、必要な妊婦に保健所での受診を勧めています。また、保健ボランティアへの研修をはじめ、様々な機会をとらえて取り組んできた啓発活動によって、妊産婦の健康を守ることは村全体にとって大切なことだと考える人が出てきました。この地域の村長は男性で、保健ボランティアの約3分1も男性です。活動を通じて、まず彼らが母子保健の重要性を理解したことの意味は大きく、母子保健の問題は一部の女性だけのことだと考えられていた地域で、男性を含む幅広い層の人々が母子保健の向上に関わりやすくなる雰囲気が広がりつつあります。
保健ボランティア研修の様子。男性も積極的に学びます。

 
事業によって生まれた「コミュニティみんなで母子の健康を守る」気運が、これからも高まり続けていくことを願いながら、サン・バルトロメ・ホコテナンゴの皆さんを今後も見守っていきたいと思います。
 

林裕美(はやしひろみ)
海外事業運営本部 プログラムコーディネーター

 
1993年のカンボジア総選挙で、選挙監視の国連ボランティアとして活動していた日本人が現地で殺害された事件をきっかけに、国際協力に関心を持つ。大学卒業後、民間企業を経て2001年にアムダ海外事業本部(AMDA-MINDSの前身)入職。カンボジアでのコミュニティ開発事業、インドネシアでの復興支援事業に従事後、2007年から現職。趣味はピアノ、読書。岡山のお気に入りスポットは、岡山県自然保護センター。福岡県出身。

 


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