ミャンマー農村部でコロナ禍に苦しむ人々 ミャンマー事務所 渡辺陽子
新型コロナウイルスの感染者がミャンマー国内で初めて確認されたのは3月下旬のこと。他の国々に比べると感染者の増加は緩やかなものでしたが、8月下旬からラカイン州と最大都市であるヤンゴンを中心に加速し、それまで全国で435人だった累計感染者数が、わずか1ヵ月あまりで6,471人(9月22日時点)と約15倍にまで増えてきています。
「保健サービス利用促進プロジェクト」を実施しているパウッ郡は、ヤンゴンから北に約700km離れた地方に位置しています。隣接するタイや中国で出稼ぎ労働者として働いていた地元の人々が、毎日数人~数十人の単位で戻ってきていますが、彼らは自宅に戻る前に2週間、郡内の数ヵ所に開設された隔離施設に滞在し、PCR検査で陰性が確認されてから帰宅しています。隔離施設と言っても病院や診療所ではなく、寺院や学校などが臨時の隔離施設として使われている状況です。郡内ではこれまで感染者の確認はありませんでしたが、つい先日、初めて見つかったとのことです。
こうした状況にあるパウッ郡でも、コロナ禍は村人の日常や意識に大きな影響を与えています。例えば教育については、いつもなら4月から5月にかけての夏休みの後、6月には新学期を迎える予定でした。しかし、感染拡大防止を目的に現在でも学校は閉鎖されています。感染状況が比較的落ち着いていた8月までは、一部の高校で授業が再開されていましたが、その後の感染増によって再び閉鎖となってしまいました。現在は再開時期の見込みもたてられない状況にあります。この間、公立校に在籍する子どもたちは特に課題を出されるわけでもなく、家で過ごさねばなりませんでした。保護者は「遅れをどう取り戻すのか、そもそも進級できるのか、再開しても感染予防策がどこまで徹底できるのか」を心配しています。
郡内では他にも、こんな話が聞かれます。
「地元に戻って来た出稼ぎ労働者は働き口が中々見つからないため、すぐ現金に換えられるタケノコ採りをするなどしてしのいでいます。同じように考える元出稼ぎ労働者が多いため、商品のタケノコが見当たらなくて困っている人も多い」
「出稼ぎによる仕送りをあてにして小規模ビジネスに投資していた家族が困窮している。例えば道路沿いの土地を購入し、雑貨店のオープンを計画していた村人は、土地代や店の建築費、商品購入等に必要な資金を確保できなくなり、この先の商売の予定が立てられなくなってしまった」
「新型コロナウイルスの感染が世界中に広がる前に海外での出稼ぎを計画し、借金をして準備したのに、感染拡大で出稼ぎができなくなり、借金を抱えたまま困窮している」
「新型コロナウイルスの影響で輸出が難しくなり、これまで他国に輸出していた落花生、玉ねぎ、トウモロコシ等の価格が下落してしまった。例えば昨年は1.6kgで約200円だった玉ねぎが、今年はわずか50円程度になっている」
パウッ郡の保健当局は、子どもの予防接種や妊婦健診、一般外来の対応など通常の保健医療サービスの提供に努めながら、新型コロナウイルスの感染予防策の啓発、施設隔離者の健康状態の確認や検体採取も行うなど、どの職員も多忙を極めています。そこで7月には、在庫が底をつきかけていた個人防護具(マスク、フェイスシールド、ガウン、キャップ)を郡保健局に提供し、医療従事者や行政職員が安全に業務できるよう支援しました。
また、日本の皆様からご支援いただいた布マスク270枚を、地域住民、助産師等の活動参加者ならびに事業スタッフに配布するなどし、私たちにできる感染予防活動を進めています。配布した布マスクを受け取った助産師からは、こんな嬉しいメッセージをもらいました。「生地が素敵。手作りと聞いて、わざわざ日本から送ってくれたことに感謝しています」
こうした様々な努力のかいもあってか、感染者の症状や感染対策に関する正しい知識は、住民の間に浸透してきています。健康教育の一環として確認すると、「携帯の画面を触ったら、きれいに拭くことも大切だよね」と答えてくれる村人もいます。ミャンマーでの初の感染者が確認された直後、4月頃までは「しょうがスープを飲むとコロナが治る」といった誤った情報が、口コミやSNSを通じて拡散していましたが、最近はこのようなデマも落ち着いてきているようです。
これからも、私たちAMDA-MINDSはコロナ禍に苦しむ人々に寄り添いながら、必要とされる活動に取り組んでいきます。