「自分のからだ、大事にするわ」女性たちの大きな決意
海外事業運営本部 小林麻衣子
ネパール・カトマンズ郡のゴカルネシュワル市で実施している「乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンププロジェクト」は、2021年1月の開始から約10か月が経過しました。
この間、新型コロナウイルス感染症対策で長期のロックダウンもありましたが(2021年4月末~7月上旬)、スクリーニングキャンプや啓発活動に参加した地域の女性たちからは、「参加してよかった」といった、うれしい声が届くようになりました。
プロジェクトの主な活動は、1) 乳がん、子宮頸がんについての啓発活動、2) 乳がん、子宮頸がんのスクリーニングキャンプ、そして3) 診療所スタッフへのスクリーニング技術研修、の3つです。
1) の啓発活動では、まず、集落ごとに配置されている地域保健ボランティアの女性たちに研修を行い、彼女たちが担当集落の母親グループなどを対象にがん知識の普及とスクリーニングキャンプ実施の情報を伝えます。2) のスクリーニングキャンプは、ゴカルネシュワル市内6つの診療所で行います。プロジェクトでは治療は行わないのですが、ネパール政府はがん患者に対して治療費を補助しているので、そうした情報も併せて伝えます。
ネパール国内で女性が罹患するがんで最も多いのが子宮頸がんで、それに次ぐのが乳がんです。ネパールでは、「がん=死」という考え方が一般的で、早期発見で治る可能性があること、早期発見のためには定期的な検査が必要であることはあまり知られていません。女性たちの中には、スクリーニングキャンプの実施に懐疑的な意見を持つ人も少なくなく、ある母親グループのリーダーは、「がんを見つけても治療をしてくれないんじゃ意味ないね。こんなキャンプ、主催者が数字と名声をとりたいだけだよ」と否定的な声をあげたこともありました。
しかし、啓発活動でスタッフや地域保健ボランティアから丁寧な説明を受けたリーダーは、キャンプの当日、検査を受けに会場へ姿を現しました。そして検査を終えた彼女に話を聞くと、「私が以前に受けたスクリーニングキャンプとは全然違って、いいものだったよ。思い込みでひどいことを言って悪いことをしたね。医師や看護師から、検査のやり方や検査後の説明がきちんとあって、とても丁寧な対応をしてもらったよ」とうれしそうに話してくれました。
これまでに、13回のスクリーニングキャンプを実施し、延べ611名の女性が検査を受診しました。その内、子宮頸がんで27名、乳がんでは24名に、精密検査の必要があることがわかりました。検査を受けた女性たちが一様に声をそろえて言うのは、「夫のこと、子どものこと、家のことで忙しくって、いつも自分のことはあと回しよ。なんとなく調子が悪いかな、と思っても、よほどのことがないと病院なんていかないもの。でも、検査を受けて自分のからだの状態を理解することは、自分だけじゃなくて家族のことも大切にするということなんだ、って教えてもらったわ」
また、乳がん啓発月間にあわせて開催したスピーチイベントでは、乳がんサバイバーが自身の経験を語り、スクリーニング受診の必要性を訴えました。話を聞いた女性たちは「乳がんを経験した女性の話は印象的だったわ。手術をのりこえて今も元気に生活している彼女の姿が『がんは治る』というメッセージそのものだったわ」と話していました。乳がんサバイバーの存在がこれまでの「がん=死」という意識を大きく変えるきっかけになっています。
いつも忙しくしている女性たちだからこそ、いつまでも元気でいてもらいたい。これからもスクリーニングキャンプの大切さを伝えていきたいと思います。
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本事業は、第一三共株式会社(本社:東京都中央区)、AMDAネパール支部ならびに現地行政機関との連携により実施しています。第一三共株式会社公式サイトでのプロジェクト紹介はこちらから。
小林麻衣子(こばやしまいこ)
海外事業運営本部 プログラムコーディネーター
外国語の学習が好きで、大学ではヒンディ語を専攻。バックパックを背負って毎年インドを訪れる。大学院を休学して長期滞在したインド・ビハール州の農村で、村の人たちと生活を共にしたことが「地域開発」に興味を持つきっかけに。国際学修士を取得後、青年海外協力隊員としてスリランカで活動。2008年にAMDA-MINDS入職後は一貫してネパール事業に携わる。趣味はコーヒー。栽培と焙煎にも手を出しつつある今日この頃。岡山のお気に入りスポットは、玉野市から倉敷市児島に向かう海沿いの国道430号線。岡山県出身。