1,000のチャンスをつくる野菜栽培キットの配布
マダガスカル事務所 ラクトゥマララ・サルビディ・ジェニファー

2023/11/21

「我が家には、くま手がなかったので、もらえてうれしい!畑仕事で使うのが、今から楽しみです」
 
そう語るのは、アムダマインズから野菜栽培キットを受け取った農家のジュリアンヌさん。一家で農業を営むジュリアンヌさんにとって、くま手やじょうろ、シャベル、草かごなど、野菜栽培キットの中身はすぐに役立つものばかりです。
 

野菜栽培キットを受け取った村人の年齢層や状況は様々。何年も農業を営んでいる人もいれば、これから新たに家庭菜園規模からチャレンジするという人も。

ジュリアンヌさんが住むアチモンジャン郡は、5歳未満児の48%もが慢性的な栄養不良という、マダガスカルの中でも栄養状態が悪い中央高地に位置しています。
そこで私たちアムダマインズは、アチモンジャン郡の10コミューン(マダガスカルの行政単位、日本の町レベル)を対象に、子どもの栄養改善を目指し、知識の向上と実践の両輪を支援するプロジェクトに、2022年から取り組んでいます。
 
プロジェクトの1年目には、栄養改善につながる知識や情報の普及を目的としたたくさんの研修を行い、延べ5万人以上が参加しました。内容は、栄養バランス、安全な水・衛生と感染症予防、野菜栽培や堆肥作りの方法、養鶏方法、家計管理など、村人の「あれが知りたい、これも知りたい」という要望に応えられるテーマならなんでも!がモットーです。
ちなみに研修の講師は、アムダマインズのスタッフではなく、トレーナー育成研修を受けた村人に務めてもらいました。
 

トレーナー育成研修の様子。この時のトピックは、環境に優しい堆肥作りについて。

さて、プロジェクト2年目となる今年は、研修を継続しつつ、そこで得た知識や情報が実践の場で活かされるような活動を工夫しています。
先に紹介した野菜栽培キットの配布もその一つ。研修で学んだ野菜栽培や堆肥作りの知識を実践しやすくするためのものです。
 
野菜栽培キットって本当に必要なの?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、私の母国でもあるマダガスカルは、残念ながら世界で最も貧しい国の一つであり、物やお金、農業資源の不足が農家にとって最大の課題となっています。
日々の暮らしにすら困る農家が、いきなり大掛かりな営農投資をして食料を増産するのは不可能ですが、野菜栽培やたい肥作りの知識と野菜栽培キットを活かし、庭先で野菜を育てることができれば、日々の食卓を少しだけ豊かにすることができます。
 

家庭菜園に興味があるのは大人だけではありません。農業に関心があるからと、研修に参加する子どもも少なくありません。みんなとても熱心で、やる気に満ちています。

先月から今月にかけて、1,000世帯に野菜栽培キットを配りました。この1,000世帯がどのように選ばれたのか、気になりますよね。
 
マダガスカルのいくつかのコミューンでは、急速な都市化の進展により耕作地が不足し、農業は減少しつつあります。今回、家庭菜園キットを配布した4コミューンは都市化の影響がまだ少なく、これらの中で研修への参加回数が多かった1,000人の属する世帯を、今回の配布対象として選びました。
みんな、研修を通じて野菜栽培の知識と技術を十分身につけているので、あとは実践あるのみ。提供したキットで野菜栽培に取り組み、育った野菜を消費することが習慣化すれば、栄養状態の改善につながります。さらに、余剰分の販売によって、収入が増えることも期待できます。
 

キット配布の日に、マダガスカル事務所スタッフで記念写真を撮りました(中央が筆者)。

なお、この1,000人は全員が会計管理や市場調査の研修も受けています。普段、あまり村人から重要視されないテーマですが、実は適切な家計管理につながる大切なものです。農業資材の調達価格は、農家の家計収入を上回ってしまうのが常で、農業から十分な利益を上げられない状況が続くため、収穫物は全て売ることで収入の不足分を穴埋めしています。
野菜栽培キットの提供は、こうした負のループを断ち切るチャンスにもなり得るのです。
 
アンパネフィ・コミューンで研修講師をしているラドゥさんは「野菜栽培キットを配ってからというもの、研修を受けたがる村人が増えて大変だよ」とうれしい悲鳴を上げています。
 
「初めて参加する人に、栄養バランスや安全な水・衛生と感染症予防、野菜栽培などについてイチから話をし、理解してもらうのは大変だけど、やりがいも感じてるんだ。研修で得た知識はきっと、子どもの栄養改善に貢献するはず。この町では近い将来、栄養不良の子どもなんていなくなるはずさ」
 

野菜栽培キットを受け取った若いお母さんの、はちきれんばかりの笑顔をみていると、このプロジェクトに関わっている喜びを感じずにはいられません。みんな、お腹いっぱい食べられますように。

 

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活動レポート「少しの工夫で変わる意識~栄養改善の取り組みを90村に拡大」(2022年4月)
マダガスカルスタッフブログ こちらから

 

この記事を書いたのは
Rakotomalala Sarobidy Jennifer
マダガスカル事務所 フィールドオフィサー


学生時代、国の発展に貢献しうる開発プロジェクトに興味を持ち始める。大学で政治学を修めた後、弁論トレーニング講師や現地NGOでインターンシップを経験し、2022年7月からアムダマインズのプロジェクトに参加。
一番の趣味は弁論だが、チェスやバドミントン、まだ行ったことがない地域の探索も大好き。マダガスカルの首都アンタナナリボ出身。

 
 

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