茶色くなる前のコーヒー豆のおはなし
ネパール事務所 小林 麻衣子
コーヒー好きを自覚したのはいつ頃だろうか。
大学の時に住んでいたアパートの近くに小さな焙煎屋さんがあって、その香ばしい匂いにつられて少しどきどきしながら扉を開けたのが、「ちゃんとした」コーヒーとの出会いだったように記憶している。
その後、喫茶店でアルバイトをしてハンドドリップの楽しさ知ってからは、自宅でも焙煎豆をミルで挽いてからドリップしたコーヒーを飲むようになった。それでもその時は、未来の自分がネパールでコーヒー豆の生産に関わることになるとは、さすがに想像もしていなかった。
ネパールの山間の村でコーヒーの木を見つけたのは、2014年の秋。小規模農家の所得向上支援を始める前の、簡易調査で訪れたある家の庭先に赤い実をたくさんつけた木があり、なにかと尋ねると「コーヒーだよ」と家の人が言った。初めて見た、「茶色くなる前のコーヒー豆」の姿だった。十数年前に海外の団体から苗をもらって植えたけれど、この実をどこにどうやって売ればいいのか分からなくてそのままにしている、と彼は話していた。
その時のわたしは、コーヒーを飲むことは大好きだったけれど、焙煎豆になる前のことについてはなにも知らなかった。それなのになぜだか、真っ赤な宝石のような果実に魅せられた勢いで、村の人たちと約束してしまったのだ。「一緒にコーヒーをつくろう。コーヒーは絶対に収入になる。若い人たちが海外に出稼ぎに行かなくていい村をつくろう」
2019年、その地域での活動の最終年次、1,000本のコーヒーの苗木を提供した。村の人たちは、それまで何世代にもわたって伝統的な農業を続けてきた土地一面に、小さなコーヒーの苗を丁寧に植えた。そして、村の全世帯で資金を出し合ってコーヒー農園を法人化し、会社を設立した。これは、コーヒー栽培を通じて先祖代々受け継がれてきたこの土地を守っていく、という村の人たち全員の覚悟の表れだった。
2023年に初めての収穫があり、30キロの生豆を日本に輸出した。2024年には大規模な土砂崩れ災害で村の居住地域と農園の一部が流される被害が発生するなど、決して順風満帆というわけではないけれども、作付面積と収穫量は変わらず増加傾向にあり、なによりも村の人たちのコーヒーにかける強い想いが変わらずある。
白い花が満開のコーヒーの木に出会えたらラッキーです。 真っ赤な宝石のように輝く完熟のコーヒーの果実。
今、わたしの目の前にある一杯のコーヒーはこの村で栽培されたものだ。まさに「Seed to Cup(種からカップに入るまで)」の物語の中に身を置いて味わうこのコーヒーは、「格別」という言葉さえも物足りなく感じるほどだ。日々のコーヒータイムだけではなく、わたしの人生に豊かさをもたらしてくれたこの村のコーヒーとの出会いにとても感謝している。
7月12日(土)のイベントで、このコーヒーの物語についてお話しします。
どうぞ、聞きにいらしてください。
(イベントの詳細についてはこちらから)
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