山岳地域における持続可能な給水システムの導入
ミャンマー事務所 南條昌康

2025/12/11

水タンクの基礎作りに力を合わせて取り組む住民

 

ミャンマー北部にあるシャン州マイエー郡の多くの村は、険しい山岳地帯に位置しています。アムダマインズが母子保健改善事業を展開しているこれらの地域、とりわけパラウン族の居住地域では、飲料水や生活用水を確保することが極めて困難です。そのため、事業の支援で建設されたハエ防止型トイレでさえ、利用に必要な水が得られず、適切に使用できない状況が続いていました。

 

このような水不足は、単なる生活の不便さにとどまりません。住民の多くは教育機会に乏しく、収入も少なく、慢性的な貧困に直面しています。そのため、衛生や保健に関する知識が不足しており、技術力や資金の不足から自力で水源を整備することは困難です。また乾季になると、さらに水不足が深刻化します。その結果、適切な手洗いやトイレ利用ができず、感染症が母子を含むすべての住民の健康を脅かしています。

 

竹管で工夫しながら生活用水を確保している

 

こうした課題に応えるため、事業ではまず「水源調査」を実施しました。利用可能な水源の位置や水量を確認し、重力式給水システム(Gravity Flow Water System)の設置が可能かどうかを検討しました。調査結果をもとに、山腹にある自然水源から村落まで水を導く給水設備を、6つの集落で建設していきました。

  • 水源および給水システムの設置可能性を調査
  • 多くの住民が参加し、地域の期待の高さがうかがえた

建設工事にあたっては、集落ごとに「給水実施委員会」を組織し、住民自身が工事の各段階に参加できる仕組みを整えました。パイプの設置や貯水タンクの基礎づくりといった作業を住民と共に行うことで、住民の主体性が高まると同時に、将来の維持管理に必要な技術も身につきます。

 

大きな車両が入れない山道では、資材を一つひとつ人の手で運び上げる

 

工事完了後には、実施委員会を「維持管理委員会」へと改組し、長期的な持続性を確保するための行動計画づくりや修繕基金の運用についても話し合いを重ねています。すでに給水システムが完成した集落では、日常的に安全な水を利用できるようになり、住民の生活の質は大きく向上しています。

 

しかし、給水設備からの水をそのまま飲用に使う場合、依然として健康リスクが残る可能性があります。そこで、住民に向けて水ろ過器を配布し、正しい使用方法とメンテナンスについての研修を実施してきています。これらの工夫により、各家庭で安全な飲料水を確保でき、水系感染症の予防効果が高まっています。

  • 村に水が来た!
  • 家庭用の水ろ過器

すでに各集落の委員会は、維持管理計画を整え、修繕費の積立も始めており、給水システムの長期的な稼働が期待されます。今後も事業スタッフが定期的に村を訪問し、維持管理の状況を確認しながら、地域の水供給体制をさらに強化していく予定です。

 

山岳地域での水へのアクセス改善は、母子保健の向上だけでなく、住民全体の生活と健康を支える大切な基盤づくりです。今回の取り組みは、住民自身が関わり支え続けることで、持続可能な地域発展につながる重要な一歩となっています。

 
 

この記事を書いたのは
南條 昌康(なんじょう まさやす)
ミャンマー事務所 事業統括


アメリカ留学を経て、日本財団の姉妹財団である東京財団に入所。その後、民間企業、国会議員秘書などを経て、ミャンマーへ渡航。現地企業で約5年間、主にミャンマーに進出する日系企業のサポート業務に従事。2023年2月より現職。ミャンマー語をもっと勉強しなくてはいけないというプレッシャーから逃げるかのように、好きな映画の動画配信で余暇を過ごす日々。静岡市出身。

 

 
 


 

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