シエラレオネで感じる経済学 (2)電器店のホテリング・ゲーム シエラレオネ事務所 西野義崇

2019/03/06

前回の記事(シエラレオネで感じる経済学(1) 通話料売りの機会費用)で、携帯電話のトーク・タイムを売っている人は、大きな交差点などに集中して座っている、と書きました。競合相手が多いのですから、少し離れたところで別の顧客を拾うという選択肢もあり得そうなものですが、考えてみれば、これと似たような現象は他にもよく見られることに気付きます。

植民地時代からフリータウンを見守ってきた「コットン・ツリー」

例えば、コットン・ツリーと呼ばれる大きな木のある街の中心部付近は「フリータウンの秋葉原」と呼ばれ(笑)、多くの電器店が軒を連ねています(ちなみに、こうした電器店で働いている人は、インド人など南アジア系の人が多い印象があります)。日本でもコンビニエンスストアが道路を挟んで真向いに立地しているところがありますが、フリータウン市内でも同様に、スーパーマーケットが道路を挟んで立地している例があります。なぜ、わざわざ競合相手の多い場所が選ばれるのでしょう?

多くの電器店が軒を連ねる地域


この仕組みについて、1929年に論文を発表したのが、ハロルド・ホテリングという経済学者でした。彼の名前を取って「ホテリング・ゲーム」と呼ばれます。ブログの表題を見て、なぜ、電器店なのにホテルが関係するの?といぶかしく思われた方もいるかもしれませんね(笑)。
 
分かりやすいように、次の例を考えてみましょう。海水浴場にかき氷屋Aとかき氷屋Bがあるとします。この二つのかき氷屋は全く同じものを売っており、価格も同じです。お客は海水浴場に均等に散らばっており、自分のいる場所から近い方のかき氷屋に買いに行くとします。

図1と図2(海水浴場とかき氷屋)


図1のようにAとBが海水浴場のそれぞれ左から1/3、右から1/3の場所に均等に「棲み分け」をするのが一見よさそうに見えます。しかし、Aはより右に、Bはより左に寄ることで互いの客を奪うことができます。これを繰り返すと、最終的に両者はともに図2のように中央で隣り合ってかき氷を売ることになります(ただし、このような状態の時、海水浴場の端の方にいる客が中央まで余計に歩かなければならなくなり、消費者の利益を犠牲にしている点には注意する必要があります)。

もちろん、現実社会では多種多様な製品によって差別化がされており、価格も様々なので、このように単純化された図式で表すことができる状態はむしろ稀でしょう。しかし、トーク・タイム売りと同じように類似のお店が集中する、あるいはテレビで、異なるチャンネルで似たような番組が同じ時間帯に集中する(例えば、バラエティ番組が夕方から夜のいわゆる「ゴールデン・タイム」に並ぶ)といった現象に、ある程度の説明を与えてくれます。

ホテリングによるこのモデル化は先駆的なものでした。後に「ゲーム理論」と呼ばれる理論が確立され、経済学に「静かな革命」をもたらし、更には関連社会科学領域にも応用されるようになってきました。ゲーム理論の目で身の回りを眺めてみると、いろいろと面白いことに気付きます。
 
次回は、私たちがシエラレオネの暮らしで直面する、ちょっと困ったことについて、ゲーム理論と経済学の目で見つめてみることにします。
 

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