移動できる幸福、移動せずにすむ幸福 ホンジュラス事務所 山田留美子

2020/11/04

コロナ禍で日本の皆様もまだ以前のようには移動ができず不自由な日々を過ごされているものとお察し申し上げます。ホンジュラスでも、2020年3月16日に絶対外出禁止令が出され、最近やっと徐々に緩和されてきたものの今でも身分証明書の番号によって外出できる日が決まるというかなり移動の制限がある毎日です。
 
そんな中の2020年9月、久しぶりにキャラバンが出発したというニュースが流れました。キャラバンというのは、2018年秋ごろに日本でも報道されたので記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、ホンジュラスを中心に中米諸国から北米アメリカへ徒歩で向かう人々の集団のことです。それが、コロナ禍が始まって以来久しぶりに再開したのです。
 
動機は様々であるもののホンジュラスからアメリカ合衆国への人の移動は、実は近年始まったことでも珍しいことでもありません。現在約70~80万人のホンジュラス人がアメリカ合衆国に住んでいると推定されており、例えば2017年には約43億ドルがアメリカ合衆国に住むホンジュラス人から母国に住む家族へ送金されており、それは同年のホンジュラスGDP 約231億ドルの実に18.6%を占めます。
 
実際、AMDA-MINDS ホンジュラス事務所で働いてくれているスタッフの中にもアメリカから3回もの強制送還を経験した人、娘婿と孫が一緒に出発し合衆国に到達したもののたった1日で強制送還された人、また親戚が途中で命を落とした人などがおり、ホンジュラスでは本人または家族がアメリカ合衆国に向かったことがない人を探す方が難しいくらいです。
 
メキシコの砂漠を歩いている際、蛇にかまれ動けなくなった仲間を自分たちが生き延びるために見捨てて歩き続けなければならなかったこと、誘拐され2週間の幽閉中に何度も殺されると思った後、命からがら逃げたことなどの話を経験者から聞き、報道されている危険は大げさでないのだと私も感じます。
 
それではアメリカ合衆国に無事到着して仕事ができればハッピーなのかというと必ずしもそうではないようです。以前合衆国で働いていたけれども、やはりホンジュラスの美しい自然、食べ物、優しい人々が恋しくて帰ってきたという人にたくさん会いました。誰にとっても生まれ育った国が一番良いのだとは思いますが、家族とのつながりが強いホンジュラス人にとってはなおさらのことでしょう。
 

菜園で一緒に作業する父子

 
外務省「日本NGO連携無償資金協力」を活用し実施している「栄養改善・生計向上に向けた家庭菜園普及プロジェクト」では、各家庭が、バランスのよい食事がとれるよう、多種類の穀物や野菜を限られた土地でも生産できるようにすることを目指し、雨の少ない地域のため水の確保に苦労しながらも頑張っています。その努力は、離れたくもないのに愛する生まれ故郷から離れざるを得なくなる人々を少しでも減らせるものと確信しています。
 
菜園準備をする地元ボランティアと受益者

 

山田留美子(やまだるみこ)
ホンジュラス事業 事業統括

 
大学生の時、初めての海外旅行先であるタイで手足のない物乞いを見て衝撃を受ける。同情を引くためにわざと四肢を切断されることもあると聞き更にショックを受け、途上国の実状に関心を持つように。大学卒業後、民間企業での金融業務、青年海外協力隊(南米ボリビアで野菜種子の市場調査)を経て、2011年にAMDA-MINDS入職。最近、YouTubeを見ながら運動することが新たな趣味に。岡山で過ごすお気に入りの時間は、岡山城周りの散歩と銭湯。東京都出身。

 
 


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