コロナ禍での経済成長の明暗はいかに… ネパール事務所 奥田鹿恵子

2020/12/18

先月、1か月ほど日本に一時帰国する機会がありました。電車やお店では消毒・抗菌が徹底されている他、スーパーのレジにはセミセルフレジ(自動釣銭機)が導入されるなど、さすが日本!新型コロナウイルス感染防止対策が進んでいることに驚きました。
 
ネパールでは、2回目の全国ロックダウンが9月に解除されて以降、感染拡大が加速し、私が一時帰国していた10~11月は、一日あたりの新規感染者数が4,000~5,000人台の日が続きました。その後、12月に入ってからは1,000人前後で推移しています。(累計患者数250,916人、死亡者数1,743人、2020年12月17日付けWHO発表)
 
経済活動は徐々に再開されてきたものの、依然として冷たい風が吹き荒れていて、私が好きだった日本食レストランも3店舗が閉店してしまいました。2015年の大地震からの復興を目指し、海外からの投資の誘致にも力を入れて取り組んできたネパールは、平均経済成長率7%と急速な発展を遂げてきました。しかし、10月に発表された世界銀行の推計・予測によると成長率は劇的に低下し、2019~2020年度が0.2%、2020~2021年度は0.6%とのこと。感染拡大終息の兆しが見えず、さらに低下することが予想される一方、ワクチン接種が可能になると2%にまで回復するという見方もあります。ちなみに、ネパール政府は、全土ロックダウン最中の5月に発表した予算案の中で、引き続き7%の経済成長率を目標に掲げていましたが、少々楽観的に過ぎる気もしますね・・・。
 

世界中から旅行者が集うタメル地区では、シャッターの降りた貸店舗が目立つように(2020年12月撮影)

 
新型コロナウイルスの影響で、一旦はインドなど海外の出稼ぎ先からネパールに帰ってきていた労働者も、最近また出稼ぎ先の国へと戻り始めています。ネパールに出稼ぎに来ていたインド人と交代する形で、ネパール国内で仕事を見つけることができた人もいるそうですが、より良い稼ぎを求めて(期待して)海外に出る人は後を絶ちません。
 
西部カイラリ郡のインド国境。ネパール人の行き来は許可されていますが、インド人のネパール入国は制限されています(2020年12月撮影)

 
ネパール政府は2019年、失業者に対して最低100日間の雇用を保障する「雇用プログラム(Prime Minister Employment Program)」を開始しました。ただ、実際に雇用された人から「2週間しか仕事がなかった」といった不満の声が上がる等、うまくいっていないようで、同プログラムは見直しが迫られています。また、ネパール企業の半数を占めると言われる法人格を持たないインフォーマルセクターや、個人事業主の下で働く日雇労働者に対する社会保障制度の充実は喫緊の課題とされています。
 
他方、私のネパール語の先生の家族がフィットネスのオンラインレッスンを始めたり、現地スタッフの弟は魚の養殖事業を計画するなど、コロナ禍での新たなビジネスへの挑戦も耳にします。首都カトマンズでは、食事や食材の宅配サービスが増え、毎日あちらこちらで宅配バイクを見かけるようになりました。外国人の入国制限による影響で観光産業は大きな打撃を受けていますが、宿泊施設等が格安価格を設定したことで、ネパール人の旅行者が増加しているようです。
 
オンラインのネパール語レッスンの様子

 
農業や海外からの送金に大きく依存する状況が経済成長を阻害してきた面が大きかったのではないかと思いますが、コロナ禍は、こうした従来の産業構造を変化させるきっかけになるのかもしれません。ネパール政府が新しい挑戦を積極的に後押しし、このコロナ禍をチャンスに変えて、SDGs (持続可能な開発目標)の目標8「働きがいも経済成長も」が実現されることを期待しています。
 
 

奥田鹿恵子(おくだかえこ)
ネパール事業 事業統括代行

 
ブラジルやメキシコの子どもを支援する団体でボランティア・インターンをしたことが、国際協力の道をめざすきっかけに。民間企業での市場調査、NGOでの広報業務、青年海外協力隊(中米ドミニカ共和国でのコミュニティ開発)を経て、2015年にAMDA-MINDS入職。趣味はYouTubeで楽しむマーシャルさんとのダンス・エクササイズ、バドミントン、映画鑑賞。岡山で過ごすお気に入りの時間は、岡山城や後楽園脇を流れる旭川沿いの散歩。奈良県出身。

 
 


寄付する