黄色いポリタンクの正体 マダガスカル事務所 江橋裕人

2023/08/08

Salama tompoko!(サラマトゥンプク、マダガスカル語で「こんにちは」)
 
日本は連日猛暑のようですが、こちら南半球に位置するマダガスカルは真冬。先日は、「寒い寒い」と連呼するスタッフにせがまれ、ついに事務所にヒーターを設置しました。
 

マダガスカルの首都最大のアナラケリーマーケットの様子。売られているのは、カット野菜。意外とよく見かけます。

 
さて、毎日往復30分かけて徒歩通勤していますが、道中で気になることが一つ。20リットルくらいの黄色いポリタンクを素手や台車で運んでいる人を頻繁に見かけます。中身は水だと思いますが、なぜ皆が同じ黄色いポリタンクを?
 
黄色いポリタンクが並ぶ一角は・・・?!

 
アンタナナリボの衛生環境


 
マダガスカルの首都アンタナナリボでは、人口260万人のうち、100万人以上が安全な水や適切な衛生設備を使うことができていないと言われています。確かに、住居の密集具合や側溝、雨期に冠水する道路の状況を見ると、上下水道やトイレの整備が進んでいるようには思えません。
 
マダガスカルの人口増加率は2.4%(世界銀行)である一方、アンタナナリボは4.6%(国連)。人口増にインフラ整備が追い付いていないのでしょう。2021年のデータ*によれば、日本の水道普及率は98%。世界平均は65%、マダガスカルは35%。アフリカでもかなり下。世界188位です。
 
今回のブログには取り上げませんでしたが、ゴミ収集もアンタナナリボ市行政を悩ませている課題の一つ。日本のように分別、収集・運搬、中間・最終処理等がシステム化されておらず、街のいたるところにゴミ山ができている。

 
あの黄色いポリタンクは?


 
そう、私の推測通り、家に水道のない人が、給水施設で購入した水を、あのポリタンクに入れて運んでいたのです。給水施設はJIRAMA(電力と水の供給を担う国営の会社)が設置したもので、早朝から17時頃まで、行政が運営しています。皆が利用している黄色いポリタンクは、てっきり行政か援助団体が配布したものだと思いこんでいたのですが、実は、食用油販売用のものを再利用していました。
 
ちなみに、水の値段は20リットルで500~600アリアリ(16円~19円)。参考までに、お米は1キロ3,000アリアリ(95円)くらいで、卵1個が500~700アリアリ(16円から21円)くらい。ガソリンは1リットル5,900アリアリ(187円くらい)です。
 
水供給施設で黄色のポリタンクに水を入れて運ぶ。写真右側に見える建物は洗濯スペースで、左端には洗い終わった山盛りの洗濯物が入った白いバケツが見える。

 
行政の取り組み


 
マダガスカル政府は、持続可能な開発目標6.「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」の達成に向け、請求ミスやメーター故障、不正取水などによる非収益の水を減らすなどの改善プログラムを通じて、国民が2025年までに安全な水や衛生環境にアクセスできるよう、取り組みを進めています。こうして増えた歳入は、より多くの地域への給水施設の設置や洗濯スペースの設置、給水施設の提供時間延長などに活用されているようです。
 
家に水道が無くても、給水施設で安全な水にアクセスできる世帯はまだ恵まれているといえるかもしれません。そもそも給水施設が設置されていない地域も少なくないからです。とはいえ、家に水道が敷設されない限り、水運びの負担が減ることはありません。
 
今日も事務所への道すがら、大きな黄色いポリタンクを手にした人々が、未舗装のデコボコ道を行き交うのを見ながら、「水を運ぶ負担が一日も早く減りますように」と心の中で小さくつぶやきました。

*Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2020, WHO/UNICEF Joint Monitoring Programme 2021
 
 

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この記事を書いたのは

江橋裕人(えばしひろと)
マダガスカル事業 事業統括


エチオピア飢饉やソマリア内戦のニュースを見たことがきっかけでアフリカへの興味を持つ。大学卒業後、民間企業に勤めたのち、イギリスの大学院でアフリカ地域研究(政治学)と国際関係論の修士号を取得。NGO職員としてアフリカのザンビアに3年半駐在後、2010年にアムダマインズ入職。最近は、YouTubeでただ飲み食いするだけの旅動画をよく見ていて、「こんなに食べられないな…」と歳を感じながら笑っています。茨城県出身。

 
 
 

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