道という道がゴミと人と乗り物で溢れかえり、空気や景色がごちゃごちゃしたマカッサル市にもだいぶ慣れてきた頃、ボランティアとして参加させてもらっている「スクールミルクプログラム」の実践地であるシンジャイ県へ出発する日がやって来ました。
今回インドネシアに来られたのは、現地に駐在している梶田さんとの出会いがあったからでした。「よければ夏休みにボランティアで来なよ」という一言に心動かされ、大学四年生の夏休みらしく卒業論文作成や就職活動に精を出すべきところをそっちのけに、意気揚々と日本を旅立ちました。「やったことないことをしてみたい!」という好奇心がうずいて止まらなかったのです。
「ミャーミャー」と鳴く蝉の声や、日本でも見られるような松林の景色に驚きながら、約4時間の凸凹道を車で走って辿り着いた場所はマカッサルと真逆の環境でした。建物や電線よりも棚田が多く、生まれたばかりのひんやりとした空気、自由に歩き回る地鶏や、あちこちに実る様々な果物など、あらゆるものに目をひかれました。
宿泊させて頂いた現地スタッフのマフムッドさんのご自宅では、「お風呂は水しか出ないよ」と教えてもらっていたけれど、寒さに強い私は大丈夫だろうと安易に考えていました。しかし日本の秋のような肌寒さと、時々降る雨や、太陽が出ていない時間の冷え込みを肌で感じてからは、水風呂を甘くみていた…と痛感したのです。そもそも暑いインドネシアでは水浴びが主流で、シャワーがあってお湯が出る、という日本の常識とは違うのでした。現地の習慣に沿って、朝夕のマンディ(水浴び)で頭から水を被る時は、いつも「冷たい!」が喉元まで出かかりました。しかし、言ってしまったらよけい寒さを感じる気がして、ひたすら黙って修業のように体を洗っていました。
そして、服を着たあとのぽかぽかする感じや、汗まみれの体を洗う爽快感が堪らなく心地好く、いつの間にかやみつきになっていました。
そしてどのお家へ行っても、甘い紅茶とお菓子で大変もてなしていただきました。現地の人々が集い、男の人はタバコを吹かしながら、笑いと会話を楽しむ光景がよく見られました。夜中に停電した時にみんなで外に出て、懐中電灯を囲んで笑いあった時間はとても幸せでした。
そして忘れもしない、夜空はいつ見ても、日本の彦星と織姫が羨むくらいきれいな天の川がかかっていました。これが毎晩見えるのだから、シンジャイ県の人々がうらやましいなと思いました。私の住む岡山県からは見られない南十字星も、視界に収まりきらない星空のどこかで光っていたはずです。夢のような夜空をカメラに収めるのは難しくて残念ながら写真はありませんが、ぜひ本物のシンジャイの星空を見に来てください。
都会では便利なものや娯楽に溢れているかもしれません。カラオケやスマートフォン、きれいなネオンやお洒落な建物。でも今回足を踏み入れたシンジャイ県には、「あぁ生きている」と実感できる美しいものが沢山ありました。たわいないお喋りで盛り上がるティータイム、体を駆け巡る血液の温さ、何光年も昔から届いている瞬きや、動植物と自然の声で目覚める朝。ホテル最上階のスイートルームを提供されたとしても、シンジャイ県での時間と場所ほど、命の贅沢は出来ないだろうなと思いました。
この2週間という時間は、本当に沢山の人や笑顔と出会い、かけがえのない経験をすることが出来ました。心温かな人々がいるインドネシアの地へ、必ずまた戻りたいです!
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