MINDS登山部 5,360メートルへの道のり ④氷河に沿って歩く。水と岩の世界
*過去の連載を読んでいない方はこちらからどうぞ*
①準備は入念に
②出発。ルクラからナムチェ・バザールへ
③富士山より高い場所
ただ歩いて過ごす一日を、何度も繰り返しました。 朝、まだ薄暗い時間に起きて、寝袋をたたみ荷物をまとめて、ゆでたまごとパンと紅茶の朝ごはんをすませる。ようやく太陽が出てきた頃にバックパックを背負って出発。ときどきシェルパ氏が山の名前と高さを教えてくれるのですが、私が全く覚えないので(酸素が少ないせいか頭がもうろうとするのです)、彼は同じことを何度も言わされます。たいてい、お昼すぎに次の目的地に到着して、その日の午後は周辺を散策しながら高度に順応していく。夜は、ひとりでじゃがいもを食べて(シェルパ氏はどっかに飲みに行っているみたいだったけど)、8時前には寝袋に入ってしまいます。高地のロッジは簡素なもので、ベニヤ板で仕切られた3畳ほどのスペースにぎりぎりひとりが乗れる程の木の台があって、そこに寝袋を敷いて寝ます。 寝る前には、プラスチックの水筒に熱湯を入れてもらい(高地では水もお湯も有料です)、湯たんぽ代わりに抱えて寝て、それが翌日の飲み水になります。 標高4,000mを超えて更に高度を上げていくと、緑豊かな森林が姿を消し、乾いた岩場と赤茶けた低木が延々と続きます。それまでに「森林限界」なんていう言葉を意識したこともなかったけれど、その時確実に、異なる自然界の領域に足を踏み入れたと感じました。 幸いにも(?)、私の旅のパートナーであるシェルパ氏は、2人の奥さんと6人の子ども、そして3人の孫がいる53歳の爺さまだったので、お嫁さんになる心配をすることなくトレッキングに集中することができました。 雪解けの水流にかかる最後の橋を渡ると、紺碧の氷河湖が広がっていました。その青色はこれまでに見たことがなく、その湖の岸辺に並ぶ数え切れないほどのケルンも、周囲にそびえる雪山たちも、それらのすべてが、私が歩いて7日間もかけてそこまで来たことなんてちっとも気にしていないように気高く揺るぎなく、それでいてどこか親しげな雰囲気を漂わせていました。 「おつかれさん。ゴーキョについたよ。」シェルパ氏が言いました。 「ここまで来たらもうすぐそこだね」とはしゃぐ私に、「これまでの道のりはすべてあれに登るための練習。これからが本番です」とシェルパ氏。 「最終回 You have done it!」に続く。 |