環境によって、ここまで違うお母さんと赤ちゃんの安全/青年海外協力隊 福岡海
皆さん、ナマステ(こんにちは)。私は青年海外協力隊でネパールに派遣されている福岡です。助産師として、カブレパランチョウク郡にあるドゥリケル病院に配属されています。
皆さんは、「ネパール」と聞いて何を想像されますか?「カレー」や「エベレスト」といったイメージでしょうか。正直なところ派遣前の私は、ネパールについてこのくらいの僅かなことしか知りませんでした。誰もが知るエベレストがあるネパール。そんなエベレストを含む「ヒマラヤ山脈」を望むことができるドゥリケルという町が私の任地です。朝洗濯をしながらヒマラヤ山脈を眺める時間は、とても贅沢で大好きな時間です。
昨年の8月までは、インドとの国境沿いのナワルパラシ郡のパラシという町に住んでいました。標高300mの土地から、現在は標高1550mの土地に移り住み、小さな国土の中に平野部からエベレストという世界最高峰の山まで、ぎゅっと詰まったネパールの環境の多様性を実感しています。また、100以上の民族から成る多民族国家のネパール。地域により居住する民族構成も違うので、それぞれの民族が持つ民族性はとても魅力的です。
さて、そんなネパールで私は助産師としてネパールの母子保健に関わっています。ネパールの母子保健の現状は、5歳未満児死亡率40人(出生1,000人あたり/2013年/出典ユニセフ)、妊産婦死亡率(調整値)190人(出生10万人あたり/2013年/出典ユニセフ)と、日本に比べると、まだまだ多くの妊産婦さんや子どもが最低限の安全を手に入れることができない状況にあります。
地域により色濃く残る男尊女卑の風習により、男児が産まれるまで多くの子どもを産まなければならない女性や、早期結婚を強いられる女の子。また、山間丘陵部の多いネパールでは、道路もまだ十分に整っておらず、病院に来院するまで車で3時間とか、徒歩で3~4時間の山道を通って来院するという妊産婦さんも多いです。
2月末にAMDA-MINDSさんが主催するヘルスキャンプに同行した際も、正に「道なき道」、乾季で水量の少なくなっている川の中を通りながら約3時間の村を訪れました。雨期には車では通ることができなくなってしまう僻地です。村には診療所がありますが、医師は常駐していないため今回のヘルスキャンプを心待ちにしていたようで、多くの村人が訪れていました。
インフラの整備は個人の力ですぐに解決できる問題ではないですから、個人でできる病気の「予防」が、私はとても大切だと思います。妊娠は病気ではありませんが、安全に妊娠期から産後を過ごすためには、妊娠してからではなく、妊娠前からの身体づくりが必要です。妊産婦死亡の約80%は、女性が必須妊産婦ケア・サービスと基礎保健ケア・サービスを利用できれば回避できることが分かっています。赤ちゃんについても、母乳は赤ちゃんの消化器系の成熟を促し、母親からの免疫も移行するため、病気の予防に役に立ちます。なので、手洗いやうがいといった基本的なことから、適切な栄養摂取や母乳栄養についての知識などを伝え、セルフケア能力や健康水準を高めることが大切だと思います。
今回のヘルスキャンプでは、私も、乳幼児を持つ女性を対象にした健康教育を実施しました。10代で2人の子どものお母さん、ネパール語が読めない女性、出産でお母さんを亡くしおばあさんに育てられる赤ちゃんなどに出会い、このようなネパールの現状を思うと、やり切れない気持ちになりました。ですが、こういった環境であっても家族や近所の人で助け合い、子どもからおじいさん、おばあさんまでが自然と赤ちゃんのお世話を手伝う光景や、ネパール人の大好きなチヤ(お茶)を飲みながらまったり談笑している人々の姿を見ると、ネパールってとても素敵な国だなとも思います。
なかなか情報やサービスが行き届かない僻地での活動は、地道で大変だと思いますが、本当に大切な活動の一つだと思います。ボランティアの私としてできることは微力ですが、ネパールのお母さんや赤ちゃんのためにできるお手伝いを、これからの任期中も継続していきたいです。