「これからの村づくりはわたしたちの手に!」 ネパール事務所 小林麻衣子
2017年7月14日。震災復興支援プロジェクトを実施しているカブレパランチョウク郡ロシ地区で、22年ぶりに開催された村落議会に参加しました。
これだけ書くと、なんでもないことのように思えますが、この日がいかに記念すべき日なのか、ということをみなさんにお伝えしたく、今日は少し小難しい(かくいう私がちゃんと理解できているのかはなはだ不安です)ネパールの政治のことなども交えながら、村での今後の開発活動についてお話したいと思います。
2008年5月28日、240年続いた王政がその歴史に幕を閉じ、正式に連邦民主共和制の民主国家として新たな国づくりに動き始めたネパールですが、政党・派閥間闘争や憲法制定の遅れなどにより、不安定な政情が続いていました。
この間、選挙で選ばれた人ではなく、中央省庁から任命・派遣された公務員が、村落開発委員会の事務局長として地方行政を担っていました。派遣された公務員ですから、その村の元々の住民であることはまずありません。彼らにとっては「一から村のことを理解しなければならない」苦労があり、村人にとっては「村のことを知らない外部の人と、村落運営に関する協議をしたり承認を得たりする」という苦労がありました。特に僻地では、派遣された公務員が村に住みたがらず、近隣の街に居を構えることも少なくなかったようです。となると、村人は協議や書類手続きのために、その街までわざわざ赴かねばならず…。このように、これまでの体制下では、誰にとっても苦労の連続だったのです。
2015年9月の民主憲法公布後、2017年2月に全国地方選挙の実施が発表されました。選挙自体は州別に機を分けて5月と6月に実施され(最終回として9月にも予定)、いずれの回も投票率は75%を超えていました。
AMDA-MINDSの活動地のひとつであるカルパチョウク村は、近隣11の村と統合され「ロシ行政地区」として新たなスタートを切りました。今回の地方選挙で、各村からの村長と住民代表4名、行政地区長と副長が選出され、その全員が集った第1回目の村落議会が、7月14日に開催されたのです。1990年初頭に数年間存在した「議会制民主政治」から数えて22年、1950年代の民主化闘争から数えて実に67年ごしに実現した「民衆による自治」の始まりの日が、その日だったのです。
ロシ地区長となったダル・バハドゥル・ラマ氏は、40代の若手です。過去には、映画俳優やジャーナリストだった経歴を持ち、学校建設などの社会活動を率先してきたそうです。彼は言います。「私の学歴は高くない。だけど、このような経歴を持つ私を村の人が選んでくれたことは、実際の行動を見せてほしい、という気持ちの表れだと思っている。政党の枠を超え、全住民のリーダーとしてロシ地区の村づくりに励んでいきたい。」
ロシ地区の活動方針や年間活動計画の策定に、AMDA-MINDSは現地パートナー団体と共に加わりました。私たちが活動している水と農業分野は、この地区の重点課題でもあり、灌漑施設の建設資金の一部に地区予算をあててもらうなど、良い形での連携が見込めそうです。
まだまだ始まったばかりですし、なにごとも思っている通りにはいかないのがネパールの難しいところであり、また醍醐味でもあるのですが、この日集まった「選ばれた人たち」の顔や、彼らが熱心に協議する様子を見ていると、長きにわたって密閉され滞った空気の中に、すうっと風が通り、光が見えるような、そんなすがすがしい気持ちにさせられたのでした。
(ネパールのこれまでの歴史を詳しく知りたい方は「番外編:22年ぶりの村落議会が開かれるまで」をご覧ください)