少数民族の母子の健康を支える新プロジェクト(3年事業)が始動しました! ミャンマー事務所 西尾浩美

2019/05/21
郡保健局で行われたプロジェクト開始式典(中央は郡保健局長、右隣が筆者)

ミャンマー北東部のシャン州ラショー郡にて、2月24日から新たに「母子の健康改善プロジェクト」を開始しました。主にシャン族が暮らす23村の約4,500人の住民や保健センターのスタッフとともに、女性や子どもが健康に過ごせる地域づくりに取り組みます。

ミャンマーの母子の健康指標はアジア諸国の中でも低く、GNI(国民総所得)ではミャンマーより下位に位置付けられるバングラデシュやカンボジアよりも悪い数値を示しています。

ミャンマー バングラデシュ カンボジア ベトナム タイ 日本
妊産婦死亡率
(出生10万対)
178 176 161 54 20 5
乳児死亡率
(出生1000対)
40 28 26 17 11 2
5歳未満児死亡率
(出生1000対)
51 34 31 22 12 3

(Human Development Report 2018, UNDPより抜粋)

 

事業地は川沿いに小さな村が点在する。雨期にはこの橋が使えず、ボートでの移動となる。
村の現状を分析するため、地図をつくる住民

ミャンマーでは一般に都市部と農村部の格差が大きいため、これらの数値は、農村部ではいずれも都市部の1.5倍以上と、さらに悪化します。農村部の指標が低くなる背景には、様々な要因があります。保健医療機関の数が少ない上、基礎的なインフラが整っておらず、保健医療機関へのアクセスが悪いこと。それゆえ自宅での出産が多く、緊急時の対処が困難であること。また、住民に保健知識が浸透しておらず受診の判断が遅れがちであることや、村の衛生状態が悪く感染症にかかりやすいこと、等々…。

AMDA-MINDSの活動地域では、75%以上の母親が自宅で出産しており、うち約75%の出産は医療者の介助なしに行われています。また、約25%の母親が妊婦健診に行ったことがなく、約40%の母親が産後健診を受けていません。妊娠中や産後の危険兆候については、9割が「知らない」と答えています。赤ちゃんのケアについても、約40%の母親は子どもの体重を測ったことがなく、生後6ヵ月までの完全母乳育児の実施率は約20%。栄養たっぷりの初乳は、なんと約50%のケースで捨てられています。また、5人に1人の女性が予期せぬ妊娠を経験しており、ミャンマーでは中絶が禁止されているため、出産か違法中絶かの二択を迫られています。

このような状況を改善するため、私たちは以下の目標を立てて活動を展開します。
① 村の住民や保健スタッフの、母子保健に関する知識や意識が向上すること
② 住民が、女性と子どもの健康を守るための行動をとるようになること
③ 村と保健センターとの連携を強化し、全ての母子がサービスを受けられる環境が整うこと

※ここでいう住民には、女性や子どもだけでなく、男性や高齢者も含めます。そうすることで、村全体の意識の向上と環境改善を目指します。また、健康を守るための行動は、産前産後の健診や予防接種、家族計画(避妊)、安全な出産、完全母乳育児などを含みます。

母子保健は、状況の改善がすぐには目に見えづらく、定期的に妊婦健診に行っても流産や死産が起こり得るなど、「がんばれば必ず成果が出る」というものではありません。また、村の住民の約7割は公用語であるミャンマー語の読み書きができないなど、プロジェクトの実施には多くの困難が予想されます。それでも、予防できる病気や死を確実に防ぐためには、地道な支援が必要です。

お母さんと赤ちゃんの元気と笑顔のために、これから3年間がんばります!