「土びん蒸し事件」が気づかせてくれた、萎縮するNGOがもたらす負の影響とは?

2021/08/17

海外事業運営本部長の白幡利雄です。「未来をつくる夏募金2021」キャンペーン特別連載ブログとして、4回シリーズでお届けする私のひとりごと。3回目のテーマは「萎縮してしまうNGO」です。
 
※過去のブログはこちらから。1回目「就職先としてのNGO」、2回目「NGOは怪しい存在なのか」。
※「未来をつくる夏募金2021」キャンペーンは8月末をもって終了しましたが、ご寄付は常に募集しています。引き続き、よろしくお願いします。
 


 
10万人を超えるスタッフをもつ世界最大のNGOとして世界的に知られるBRAC(ブラック)の創設者、フォズル・ハサン・アベッド氏を囲む夕食会に、日本のNGO代表として参加して欲しいという連絡を受け、バングラデシュの日本大使公邸に向かったのは、今から18年前のこと。
 
BRAC本部。1990年代に建設されたこのビル(BRAC Bhaban, ブラック・ビルディングの意)は20階建てで、当時のバングラデシュでは中央銀行の本部が入るビルに次ぐ高い建物でした。(1990年代、筆者撮影)

 
どうせたくさんの人が招待されているのだろうと思いきや、さにあらず。大使夫妻とアベッド氏、それに大使館員1人と私だけという、ごく少人数の会合であることが到着してから分かり、緊張感は一気にMAX! 当時すでに60歳代の後半だったアベッド氏に対して私は弱冠(?)35歳。まぁ、これだけ年が離れていれば、何も気にする必要はないだろうと開き直り、会食がスタート。
 
大使付きの公邸料理人が丹精込めて作る会席料理は、ベンガルカレーばかりを毎日食べていた私にとって、「ここは竜宮城か!?」と錯覚させられるようなおいしさ(筆者注:ベンガルカレーもおいしいですよ!)。
 
会話もそこそこに舌鼓をうっていたところ、まだ始まったばかりだというのに突然、目の前に「土びん」がおかれるではありませんか。「あれ? 食後のお茶? もう終わり?」と思ってしまったのは私だけのようで、他の方はまったく気にせずに話を続けている様子。というか、結構盛り上がっていたので、誰も土びんに手をつけようとしないのです。いったいどうしたらいいのか分からず、土びんを見つめながら焦りを募らせていたら、料理人の方から「まつたけの土びん蒸しでございます」との、ありがたい一言。「まつたけはブータンから取り寄せたものです」とも。
 
まつたけの土びん蒸し。食べ方に決まりはないようですが、最初は蓋を開けず、おちょこに出汁だけを注いで香りと味を楽しむのが一般的なようです。って、これは常識でしたか!?

 
そうか、お茶じゃなくて、まつたけか。じゃあ、蓋をとって食べればいいんだなと考え、あけてみたら、たっぷりとした出汁の中に、まつたけ以外にもいくつも具材が入っているではありませんか!中身を取り出して食べればいいのか、それとも出汁だけを飲むものなのか。新たな難問に直面しましたが、このピンチを救ってくれたのはアベッド氏でした。まつたけの土びん蒸しを初めて口にしたのであろうアベッド氏が、大使夫人に食べ方を尋ねられたのです。
 
私は事なきを得た、と感じたのと同時に、質問することをためらってしまった自分の卑屈さと、お門違いの自尊心に恥じ入りました。その場にいた全員が「収入の少ないNGOスタッフだから知らなくても仕方がないよね」と思っているだろうと勝手に決めつけていたこと、そして、そう思われたくないという意識があったことに気づかされたからです。私は後にこの出来事を「土びん蒸し事件」と命名し、心に深く刻み込んだのでした…。
 
アベッド氏は残念ながら2年ほど前に逝去されました。https://www.brac.net/latest-news/item/1258-brac-founder-sir-fazle-hasan-abed-kcmg-passes-awayから転載

と、前置きが長くなってしまいましたが、閑話休題。
 
NGOスタッフは、集める会費や寄付金の一部が自分たちの給料にもなっているということに対して、お金を出す側の人々があまりこころよく思わないだろうと忖度(そんたく)しているため、団体が十分な収入を得ていたとしてもスタッフの給与水準は低く抑えられている現実がある、と前回のひとりごとで指摘しました。実はこの忖度は給与だけでなく、あらゆる面に反映されています。
 
例えば、NGOの事務所で使われている机や椅子、書類棚などのオフィス什器は企業などからいただく中古品であることが多いですし、環境問題に対する社会全体の意識が高まる前から裏紙の利用は当たり前に行なわれていました。活動を支援して下さる方々から寄せていただくお金を1円たりとも無駄にしない、という姿勢を貫いているのは言うまでもありませんが、「ぜいたくをしていると思われてはいけない」という自己規制が働いていることも否定できないのではないか、と私はみています。
 
経費を切り詰め、無駄をそぎ落とし、効率を追求しつつ成果を出していく。それ自体はNGOに限らず、あらゆる組織が心掛けるべきものでしょう。問題は、過度な忖度がNGOで働くスタッフの気持ちを萎縮させてしまっている面があるということです。
 
忖度と萎縮は、組織に閉塞感をもたらします。それはやがて「NGOだから仕方ない・・・」という卑屈な意識を植え付けることにもつながります。まさに「土びん蒸し事件」の時の私のように。こうした負のスパイラルから脱するために必要なこと、それはプロフェッショナルとしての自負だと思っています。
 
次回は、いよいよ特別連載ブログの最終回。「プロフェッショナル NGOの流儀」と題してお送りします!
 
 

白幡利雄(しらはたとしお)
海外事業運営本部長

 
学生時代に手話を学んだこと、NGOの存在を知ったことをきっかけに、世界をより良く変えることを一生の仕事にしたいと決意。教育学修士号取得後、日本の国際協力NGOに就職。約21年間、東京事務所で海外事業全体のコーディネーションを担当した他、バングラデシュとネパールに事務所長として駐在。2014年にAMDA-MINDS入職。2020年から現職。趣味は読書と映画鑑賞。岡山のお気に入りスポットは西川緑道公園。東京都出身。

 
 

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