地域に築いた栄養改善の成果
マダガスカル事務所 江橋 裕人

2025/06/30

2022年3月に開始した「アチモンジャン郡における5歳未満児の栄養改善支援事業」は、2025年3月に3年間の活動を終了しました。
 
初めての事業国となるマダガスカルでのNGO登録、駐在員のビザ確保、銀行口座開設、事務所探しやスタッフ雇用など、右も左もわからないなか、一歩ずつ準備を進め、開始にこぎつけました。活動を進めてみて初めて気づくこともあり、受益者のために必要な修正を重ねながら3年があっという間に過ぎました。
 
協力してくれた村の関係者、支援者の皆さま、マダガスカル事務所や岡山本部のスタッフには感謝しかありません。

マダガスカル事務所スタッフやプロジェクトに関わってくれた専門家と(筆者:中央)
マダガスカル事務所スタッフやプロジェクトに関わってくれた専門家と(筆者:中央)。

 

本事業が取り組んだ栄養改善には、大きく分けて2つのアプローチがあります。栄養直接介入(Nutrition-specific interventions, 栄養不良の直接的な原因に直に取り組む。母乳哺育促進、微量栄養素や補完食の支援など)と、栄養間接介入(Nutrition-sensitive interventions, 農業、保健、水と衛生、教育などから栄養不良に取り組む)です。

  • たい肥作りを学ぶ村人。間接介入分野の中でも、農業は特に人気の分野。
    たい肥作りを学ぶ村人。間接介入分野の中でも、農業は特に人気の分野。
  • 水系感染症の感染経路について学ぶトレーナー。研修で得た知識を、自身の村での啓発活動に活かしています。
    水系感染症の感染経路について学ぶトレーナー。研修で得た知識を、自身の村での啓発活動に活かしています。

私たちは、この両方を採り入れて活動に取り組みましたが、ここでは栄養改善のみならずコミュニティの課題に広く取り組む栄養間接介入の成果をいくつかお伝えします。

 

• 研修を通じてコミュニティの身近な人と経験を共有できた
• 家計管理を学んだことで、支出に注意を払うようになった
• 有機肥料を作るために資源の再利用を考えるようになった
• 限られたお金を家族のために使う重要性を認識するようになった
• 研修を通じてコミュニティとの関わりが増え、地域の活動へ参加するようになった
• 子どもの健康に注意を払うようになった
• 外で用を足すことが減った
• 家庭内での対話が増え、暴力に頼らない関係構築を目指す意識変化が一部で見られた

 

10コミューン(96村)で活動をけん引したトレーナーたちが集い、互いの取り組みと学びを共有した成果発表会。地域を超えて実践を伝え合う貴重な機会となりました。
10コミューン(96村)で活動をけん引したトレーナーたちが集い、互いの取り組みと学びを共有した成果発表会。地域を超えて実践を伝え合う貴重な機会となりました。

 

こうした歓迎すべき変化は、きっと子どもたちの健やかな成長へとつながるに違いありません。なかでも特筆すべきは、自らコントロールできる部分に、多くの参加者の意識が向くようになったことです。
 
研修の学びを活かして野菜作りや養鶏を実践しても、成果がすぐに現れるとは限りません。天候や病害、マーケットなど外部条件に左右されます。一方、家計管理や資源の再利用、コミュニティ活動への参加、子どもの健康管理などは、自分たちでコントロールすることが可能です。プロジェクトの介入が一旦終わっても、一歩ずつ、できることに継続的に取り組んでいけるのです。

 

変化の積み重ねは子どもたちの栄養改善につながりますが、本事業では学びに注力したため、実践に移すための研修(実際にたい肥を作り畑で使ってみる、利用可能な材料を使って料理を作ってみる、など)は、必ずしも十分とは言えませんでした。事業対象地の10コミューン(96村)の状況は一様ではなく、まだ改善する余地の大きいコミューンも存在します。
 
事業としての取り組みは終了しましたが、今後も、きめ細やかなフォローアップを続けることができたらと思っています。

 

各コミューンの活動を支えてくれたコミューン・コーディネーターたち。地元民の彼らは、今後もコミュニティの担い手としての活躍が期待されます。
各コミューンの活動を支えてくれたコミューン・コーディネーターたち。地元民の彼らは、今後もコミュニティの担い手としての活躍が期待されます。

 
 

この記事を書いたのは
江橋 裕人(えばし ひろと)
マダガスカル事業統括


エチオピア飢饉やソマリア内戦のニュースを見たことがきっかけでアフリカへの興味を持つ。大学卒業後、民間企業に勤めたのち、イギリスの大学院でアフリカ地域研究(政治学)と国際関係論の修士号を取得。NGO職員としてアフリカのザンビアに3年半駐在後、2010年にアムダマインズ入職。1999年以降は日本にいない期間が長く、テレビはご無沙汰でしたが、最近は様々な配信サービスのおかげで、昔のドラマばかり見ています。茨城県出身。

 


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