ミャンマー事業地のとある寺院で過ごした一日  ミャンマー事務所 渡辺陽子

2019/06/08

今回は、担当事業地であるパウッに出張した際、週末に訪れたお寺でのことについてお伝えします。
 
日曜日の朝、事務所からバイクで20分ほどのところにある寺院へ行きました。到着すると、あちこちから子どもの元気な声が聞こえてきました。毎週日曜日の午前7時半~11時まで、小学校1年生から9年生(日本の中学3年生に相当)までの地域の子どもたちが集まり、仏教について学ぶもので、ミャンマー語で「ダマーサクー」と呼ばれています。ボランティアの先生が11人いるのですが、そのうちの一人が、AMDA-MINDSの男性スタッフ、コウライウィン(33歳)なのです。お坊さんが、子どもたち向けに仏教のレッスンを始め、先生を募集したことをきっかけに、2年前からボランティアで教えています。
 

子どもたちに声をかけるコウライウィン(右)

 
コウライウィンは、3年生の子どもたち15人ほどを担当していて、この日のレッスンのお題は「大好きな人の絵を描いてみよう」でした。学校の先生や近所の犬など、思い思いに絵を描く子どもたちへ、やさしく声をかけていました。
 
5年生や6年生のクラスでは、お年寄りを敬う事の大切さを先生が説いていたり、「友達に本を貸しました」など、最近人のためにした事について、子どもが一人ずつ発表していたりしました。お寺の裏では、地域の人々がレッスン後の昼食の準備をしています。先生もボランティアですが、食事も地域の人々の寄付で成り立っています。
 
5年生のレッスンの様子

 
お昼の時間、コウライウィンがボランティアを始めたきっかけについて、本人に聞いてみました。2年前、お坊さんから「ダマーサクー」の先生をやってくれないかと頼まれた時には、仕事が忙しいから、と一度は断ったのだそうです。それでも、日曜日の朝の時間だけだからと再度懇願され、引き受けることにしたとのこと。この2年間で、次のようなことができるようになった、と教えてくれました。
 
「忍耐力がついた。小さな子どもたちはおしゃべりしたり、しじゅう動き回るので、辛抱強くないといけない。」
 
「どうしたら子どもの注意をひきつけられるかを考え、手品や面白い話などを事前に準備するようになった。」
 
「ブッダの教えが以前よりわかるようになった。子どもたちに教える立場になって、まず自分自身がよく理解していないといけない事に気づいた。」
 
相手に合わせて辛抱強く待つ、興味を引く話を織り交ぜる、他人に理解してもらうにはまず自分自身が良く理解する、これら3つのことは、コミュニケーションにおいてとても大切な要素だと言えるかもしれません。ですが、常に実行するのは難しいこともあると思います。
 
昼食の時間になると、子どもたちは一列に並び、合掌しながらお寺へ行きます

 
私が寺院に足を運んだ頃は、ちょうど、あるスタッフとのコミュニケーションがうまくいかず、行き詰まりを感じていた時期でした。人間ですから意見が食い違うことや、話が通じにくい人もいて当たり前だと思います。ですが、それが長期にわたるとどう対応していいのかが分からなくなり、どうにかしなければと思っていたのです。
 
私はこの日、瞑想をしたり、お坊さんの説法を聞いたりしたわけではありませんが、子どもたちを相手に穏やかに話すコウライウィンの姿、最近した良い事を一生懸命に話す子どもたちを見ていたら、寺院を後にする頃には、心がふわっと軽くなっていることに気づきました。
 
コウライウィンは、普段村で活動するときや、事務所でミーティングをしている際にも人一倍、穏やかでにこにこしているスタッフです。彼の穏やかさの秘密は、毎週日曜日のお寺での時間にあったのかもしれません。私には、そうした忍耐力がまだないため、お寺で修行をせねば、と思う毎日です。
 
 

渡辺陽子(わたなべようこ)
ミャンマー事業 業務調整員

大学生の時に訪れたフィリピンで目の当たりにした「格差」に衝撃を受けるのと同時に、都市部のスラムや農村でその格差是正に取り組む人々に感銘をうけ、国際協力の道を志す。大学卒業後、病院事務職を経て、公衆衛生学修士を取得。NGO職員としてフィリピンにも駐在後、2017年にAMDA-MINDS入職。趣味は歯磨きとヤンゴンの動物園散策。ヤンゴンにある動物園は緑に囲まれた敷地にあり、子ども連れの家族を見ているだけで癒し。岡山のお気に入りスポットは、後楽園の井田(田んぼ)と、路面電車から見える景色。埼玉県出身。

 

 
 


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