理事長ブログ「うみがめ便り~プロジェクト構想とジビエ料理について(後編)~」
(前編はこちらから)
後編となる今回は(私はこの分野の専門家でないと断わりを入れた上で)、鳥獣害対策とジビエ普及との関係性について気がついた点をお話ししたい。
この数年、鳥獣被害が日本各地に広がっており、統計から見る被害額は年々減少しているものの、農家の被害額は全国で150億円を下回らない。テレビの映像では、猪の突進により負傷したり、また新芽がすべて摘まれてしまったり、収穫前の作物が食べ尽くされたりと、ひとたび熊や猪、鹿などが人里に現れると、大掛かりな捕り物が繰り広げられる様子が伝えられている。
一方、ジビエ料理の普及に注力している自治体や民間団体が増えている。国も交付金や補助金の枠組を活用してその取り組みを奨励している。ジビエ料理の推進は、鳥獣害対策に有効であると聞く。農作物を荒らす猪や鹿を退治し、その肉を流通させて販売、調理して食べれば一石二鳥ではないか!なるほど!と思う。しかし一筋縄では行かないのが現実だ。
農作物の鳥獣害対策、特に鳥獣駆除とジビエ料理の普及の二兎を並行して追うことは困難である。それは、前者の中心問題(=猪鹿による農作物被害)の直接的な原因の一つが「ジビエ料理が普及していないこと」ではないからだ。問題分析を行うと、かなり次元の異なるテーマ(問題)であることが分かる。ジビエ料理の普及を目指す活動は別の括りで捉えられるべきものだと考える。農作物被害を削減するためには、もっと別の、直接的な原因に対してより効果的な対策を優先的に打たねばならない。それは、例えば、より有効な狩猟方法や捕殺技術の開発であったり、狩猟者、狩猟チームの育成であったり、銃砲所持や狩猟免許に係る規制の緩和であったり、駆除奨励金の増加であったり、捕殺された獣(皮、骨、内臓等)の活用又は処理・廃棄する方法の改善だったり、あるいは農作物を守るための高機能な侵入防止柵の設置や里山の整備であったり、そしてもう少し大きな括りで捉えると、地方分権の推進を通じたそれぞれの地域にマッチした取り組みを実施するための政策の立案と予算執行に係る権限の移譲であったりもする。いずれにしても基礎自治体単独で解決できる問題ではないようだ。
一方、ジビエ振興については、国の機関である農林水産省の鳥獣対策室が各自治体や民間団体と協力して取り組んでいるが、精肉や加工品が市場に流通し身近にある状態とは言い難く、普及への道のりはこれからと言って良いだろう。従って、もしジビエ料理の普及を地域として、また国として目指すのであれば、そうなっていない原因を掘り下げ、各要因の因果関係を把握し、解決策を導き出す必要がある。
そもそもジビエ肉は美味しくないというのが一般的な評価であろう。岡山に限定されるものの、ジビエ食材の普及をモデル地区として行っている地元でも、猪肉を利用した牡丹鍋は食べるが、鹿肉はめったに食べないという。肉質を高めるためには、捕殺した後の一連のプロセスの管理が非常に重要であるが、質の高いプロセスを維持するコストは決して低くないようだ。豚肉や牛肉の小売価格が100グラム200~300円を超えると、財布の紐は硬くなると考えられるが、現状ではジビエ肉はそれをはるかに超えている。取り扱い、料理の難度も高く、美味しく調理するためにはひと工夫もふた工夫も必要で、プロでさえ避けがちである。直火で炙るようなワイルドな料理も一般的ではない。また高度な食品衛生法の実践が求められる一方、それが阻害要因になっていると思われる一面もある。
ウミガメたちが生き抜いている海は海で、海洋ごみをはじめとする海洋汚染、海温上昇による海域生態系への影響、乱獲による資源の減少など、大きな問題があり、それらは非常に複雑で、解決の糸口を見つけることさえ容易ではない。山にも、森林破壊、森林火災、再造林や耕作地の放棄、単一樹種の植林による多様性の欠如、温暖化による氷河の減少など、問題が山積しており、一部の問題は人為的に、また無作為により引き起こされている。その一つが鳥獣害であろう。鹿や猪による獣害とどう向き合うか、もしくはどう共存、活用していくのか、様々な課題があることが分かる。ウミガメは山に別れを告げ、次の上陸地を目指してゆっくりと泳ぎ出した。
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