うみがめ便り ~ デジタルの湯(序章)~

2024/04/08

「デジタル化」あるいは「アナログ的」は、すでに慣れ親しんだ言葉である。
 
簡単な例を述べると、数値で示された時計をデジタル表示式時計、針の角度で示された時計をアナログ表示式時計と呼ぶ。前者は0:00から0:01へと表示が瞬時に変わるため、その間の連続性を確認できない一方、アナログ式は、針の位置が少しずつ傾斜していくことから00から01までの変化を確認できる。


 
本来はこうした連続性を伴うかどうかが違いの一つだそうだが、一般的には、「俺はアナログ人間だから」といった表現にも使用されることがある。そこには「ITやコンピューターは得意ではない」という直接的な意味だけでなく、頭脳明晰ではなく、優柔不断であるが、心は暖かく、人間性が豊かなどといった誤用的解釈も含まれている。
 
さらに、デジタルは冷徹で揺るぎのない真実(計算結果)を示す一方、アナログは(0.01が左右見る角度によって0:00や0:02にもなることから)真実は一つではなく、場合によって多数存在すること、またそれを可能にする要因として人間性や社会性の存在を暗示している。なお、上記は筆者の勝手な解釈であり、異を唱える方もおられることは重々承知の上で書かせていただいた。どうかご容赦願いたい。
 

 
さて、ウミガメは秋から冬にかけて富山湾沖の深くて居心地の良い場所で長い眠りを貪っていた。しかし年初の地殻変動によって目覚めた。能登半島周辺では、2000年代以降、震度6を超える地震が複数回発生したが、熊本などと同様、大人の事情により、比較的震災リスクの低い安全な地域の一つに挙げられていた(デジタル情報による地震予測の解析結果が、一定の配慮や忖度に基づくアナログ情報に置き換えられていた)ようである。
 
さらに今回の震災では、元々脆弱だった半島内のインフラが各地域で寸断されたため、十分な支援が被災者へ届くまでに時間を要したらしい。すでに数か月が経過したが、被災された方々、現在も避難先で困難を抱えられている方々が一刻も早く、もとの暮らしを取り戻すことができるよう心よりお祈りしたい。
 
余震による海底近くの地滑りを避けるため、ウミガメは日本海を離れた。太平洋側に身を寄せるべくたどり着いた東京湾はまさに別世界であった。
 
年明け後あっという間に株式市場は沸騰、日経平均株価は4万円を超えた。アルゴリズムによる高速取引が幅を利かせる株式市場の主役たちは、一般投資家に「果報は寝て待て」と言うが、私の場合どうも寝違えたようである。アナログ世代のウミガメのポートフォリオは半導体関連銘柄とはほとんど無縁だったため、喜びの度合いは沸点に遠く及ばない。
 

 
昨今、生成AIやEV(電気自動車)を支えるための半導体分野の進歩が目覚ましい。「半導体を制する者が世界を制する」とばかり、日本においても政府からの支援や補助金が手厚い。世界市場をリードするという意味からも、一歩先んずることが重要らしい。戦略的な色彩が濃いことから、外交、国家安全保障にも大きな影響を与えている。しかし、半導体や防衛費など、特定分野への過度な資源投入は、その有限性を考慮すると、ゼロサムゲームではないが、短期的には他分野の後退を招く可能性があり、一定のバランスが肝要と考える。
 
話は変わるが、デジタル・ディバイド(情報格差)という言葉が語られて久しい。情報通信技術(ICT)を難なく、そして正しく利用できる人とそうでない人との間に生じる格差を言い、日本においてもそれらが経済格差、社会格差の一因となっている。それ故、後者を代表する高齢者層、貧困層の子どもへのサポートが喫緊の課題になっている。
 
ICTが普及することにより人々の生活は便利になる一方、知らぬ間にリスクと隣合わせになることを強いられる。インターネットを介在した(サイバー)犯罪がいかに多いことか。警視庁の発表を引用した日経新聞の記事(2024年2月8日)によると、2023年、インターネットを悪用した詐欺被害額は772億円(一日平均2億円)に上り、詐欺被害額全体の約半分を占め、また2020年対比では3倍以上に増加していると伝えている。そして統計に表れない数字はその何倍にも相当するであろう。
 

 
今のところ、ネット犯罪への防備は、個人や法人に委ねられている。政府による対策も進んでいるが、被害の急増はその対策が追いついていないことを示している。詐欺犯罪組織は、ロシア、北朝鮮、タイ、フィリピン、カンボジア、ミャンマーなど、海外のいたる場所、しかもネット接続さえできれば、辺鄙な場所に拠点を構え、部屋にこもって活動しており、組織の摘発は容易ではない。政府間の連携下、国境を越えた法の適用と執行が不可欠だと考えられるが、皮肉にも、この分野はデジタル情報の共有が遅れている分野の一つであろう。
 
師走から春先にかけて、日本のマスコミは、本来IT化やデジタル化の旗振り役となり、デジタル化を通じて、煩雑な行政手続きの効率化、社会課題の解決、不正行為の是正に鋭意取り組むはずの立法府の方たちの一部が、アナログの湯からあがり切れていない様子を映し出していた。デジタル技術は水風呂の如く冷たいのであろう。
 
デジタル数値の1(悪、又は有罪)と0(無罪)との間には連続性がなく、その間に異なる数値は存在しない。しかし、アナログ形式の時計を使用している方たちにとって、文字盤に表示された0:01は、右側から眺めると0:00に見えなくもないという解釈が成立したのであろう。彼らがアナログの湯(濁り湯)の効能を悪用し、澄んだデジタルの湯(水風呂)への入浴を回避していたことが明らかとなった。
 
ウミガメは、虚構と真実、デジタルとアナログが混在するアンバランスな日本を離れ、アフリカの西海岸にたどり着いた。(つづく)
 

 
 

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この記事を書いたのは
鈴木 俊介(すずき しゅんすけ)
理事長


大学卒業後、民間企業に就職。その後国連ボランティアとしてカンボジアや南アフリカの業務に従事、様々なフィールド経験を通じて国際協力業界へのキャリアチェンジを決意。大学院で国際開発学を学び、ミャンマーにおける人間開発プロジェクトに従事した後、1999年、AMDAグループ入職。ベネズエラ、インドへの緊急救援チームを率いた他、ネパール、アンゴラ、インドネシアなどで様々な事業運営に携わる。2002年、AMDA海外事業本部長就任。2007年、AMDA社会開発機構設立。理事長就任。趣味は旅行、山羊肉料理の堪能。岡山のお気に入りスポットは表町商店街とオランダ通り。神奈川県出身。

 

 
 

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