うみがめ便り ~ デジタルの湯(第二章)~

2024/08/21

シリーズ前編はこちらからご覧ください。
うみがめ便り ~デジタルの湯(序章)~
うみがめ便り ~デジタルの湯(第一章)~
 
2010年に私はシエラレオネに初渡航(初泳航)して以来、特に首都フリータウンの変遷を眺めてきた。大変貌を遂げる新興国の首都などとは異なり、その間の変化は極めて乏しいが、貧困度の高い地方、政変が続く近隣国から流入する移民によって、フリータウン周辺の人口は膨張し、街の規模は中心をやや北方に置いて同心円的に拡大してきた。
 

首都フリータウンの街並み。インド製の三輪タクシーが人々の足となっている

 
他方、複数の要因によって物価上昇が続き、特にCovid-19のまん延とロシアのウクライナ侵攻によるダブルパンチ以降、一部の階級を除き人々の暮らしは悪化の一途をたどっている。
 
このことは数値でも示されており、アフリカ開発銀行によると、2022年の実質GDPの伸び率は前年の4.1%から2.8%に低下した一方、インフレ率は、前年の11.9%から26.1%に上昇した。スラム地域は広がり、治安水準も低下した。昨今は薬物の乱用、薬物を入手するための窃盗事件の多発が国家的重要課題の一つとなっている。
 
元々、同国の経済は、歳入が特定鉱物資源の輸出に偏重しており、歳出の原資については、公共サービスへの支出は援助国に、加えて、インフラ投資は中国やトルコからの融資などに依存した構造になっており、どう向き合っても自律経済には程遠い状態である。
 
外部要因の影響を受け、政府の経済政策や税制も一貫したものにならず、これまで同国で生まれ、経済を支えてきた(見方によっては経済資源や富を占有してきた)レバノン系住民や、英米などとの二重国籍を持つクリオ人口(Krio:奴隷解放後、一定の資産と教育を携え、新天地をシエラレオネに定めた人々の子孫)などの富裕層が、今、少しずつこの国から他国に拠点を移している、あるいは計画している様子がうかがえる。
 
他方、個人的な観察以上の何ものでもないが、最近、インド系人口が、経済環境の悪化を理由に離シする脱出組の穴を埋めるかの如く、その真空地帯に入り込みつつある現象を目にする。捨てる神あれば拾う神ありである。彼らの熱意とたくましさには敬服する。
 
首都フリータウンにオープンしたインド系スーパーマーケット

 
あくまで比較論ではあるが、数字に強く、商売上手、何しろ顧客サービスを心得ている。彼らがフリータウンの市場を席巻するのは時間の問題であろう。
 
シエラレオネは、アフリカ大陸の中でも最貧困国であり、ビジネスを成功させる難易度は高い。そのような環境下で彼らのビジネスが継続するようであれば、回りまわって本国の景気高揚も続くのではないかと想像できる。こうした現象がアフリカ大陸全土で起きているとすれば、好況なインド経済に関する数値の裏付けにもなる貴重なアナログ情報である。
 
先日、フリータウンのインド料理店で、デリーからこの国を訪れている医療関係者に出会った。何と、メディカルツーリズムを目的とした営業を手掛けているとのこと。富裕層がいなければ成り立たないビジネスである。
 
最貧困国であるこの国にさえ、潜在的な顧客が一定数いることを信じ、営業努力を惜しまないインドビジネスのたくましさを垣間見たような気がすると同時に、公立病院で業務に携わる私が常に見る光景とのギャップにやるせない思いを感じた。それは治療のかいなく他界した我が子の死を、床にへたり込み大声で叫び嘆く母親の姿である。悲しみにはデジタルもアナログもない。(第三章に続く)
 
シエラレオネの5歳未満児死亡率は世界で5番目に高い(出生1,000人あたり101)

 
 

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この記事を書いたのは
鈴木 俊介(すずき しゅんすけ)
理事長


大学卒業後、民間企業に就職。その後国連ボランティアとしてカンボジアや南アフリカの業務に従事、様々なフィールド経験を通じて国際協力業界へのキャリアチェンジを決意。大学院で国際開発学を学び、ミャンマーにおける人間開発プロジェクトに従事した後、1999年、AMDAグループ入職。ベネズエラ、インドへの緊急救援チームを率いた他、ネパール、アンゴラ、インドネシアなどで様々な事業運営に携わる。2002年、AMDA海外事業本部長就任。2007年、AMDA社会開発機構設立。理事長就任。趣味は旅行、山羊肉料理の堪能。岡山のお気に入りスポットは表町商店街とオランダ通り。神奈川県出身。

 

 
 

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