うみがめ便り ~ デジタルの湯(第三章)~

2024/09/04

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うみがめ便り ~デジタルの湯~ 序章第一章第二章
 


 
前回の投稿で、シエラレオネにおける経済の急速な悪化に伴い、一部の富裕層人口が脱シを試み、インド系人口にその立場を譲りつつあるという私の認識についてお伝えした。
 
旅行業、自動車、電気機器、スーパーマーケット等々、これまではレバノン系人口の牙城であった小売業の領域にインド系が進出している。元々、両者は協力関係にあり、店主はレバノン系でも、実際の店舗管理や経理はインド系が担うという事例は多々見受けられていたが、一部のビジネスにおいて、例えば店主がインド系に変わるなど、勢力図に変化が生じている。
 
首都フリータウンの様子

私が当地で使用している車両は「スズキ」である。とは言っても日本製ではなく、インド製のスズキ車である。販売代理店のレバノン系社長は、インド本国におけるスズキ関連会社との契約に基づき、インドで船積みを行い、輸入、販売している。もちろんその手続きなどを担っているのは、同社長のもとで働くインド系職員であることは容易に推察できる。従って、私はフリータウンの代理店におけるスズキ車の購入、一年ごとの登録更新も、保守点検も、インド系職員にお世話になっている。スズキ車にかかわらず、インドや中国で製造されたあらゆる商品が、アフリカ大陸におけるインド系列の販売網を通じて消費者に届けられていると言っても過言ではないと考える。
 
インド系販売店の多くは家電製品を扱っていることもあり、スーパーなどを除くと値札がない。多くの場合、値段交渉が必要となる。ただ、その場限りの値段交渉は成功しない。成功の秘けつは、お得意さんになり、店主や店員との信頼関係を強化すること、過去の値段と条件を引き合いに出し、エビデンスを用いて交渉に臨むことなどである。面倒だが、購入者側にも戦略と工夫が求められる。
 
この売買プロセスを切り取ってみると、いい加減な商売だとも言えるし、高度な駆け引きとも言える。この世には、真に適正なものはなく、すべてのものに相対的な価値が宿っているという概念に基づくと、商品価格にも柔軟性を持たせるべきだという考え方がむしろ正しく、価格交渉は正当化される。このような環境下で修練を重ね勝者になる人は、きっとどこの世界でも活躍できるだろうと思う。デジタル表示の正札に基づく売買は、消費者を退化させてしまう一面を持っていることに気づく。
 
一般に、インド系の人はIT分野で活躍している人が多いので、論理的で計算高く、物事を割り切って考えるデジタル思考の人が多いのではないかと考えがちである。確かに、米国における留学中、私がいつも驚かされていたのはインド系学生の優秀さである。特に、経済学、統計学などでは群を抜いていたと記憶している。ニューヨークという土地柄、そうした分野にはインド系の教授陣も多かった。他方、論理的思考を表現する過程の一端かも知れないが、一般的にインド系学生は自己主張が強く、話が必要以上に長い。従って、彼らとの議論は、忍耐力を伸ばし、効果的かつ論理的に議論する力を培うという側面を持つ。
 
(イメージ)

ところで、読者の皆さんは、インド映画(ボリウッド映画)をご覧になったことがあるだろうか?日本でも、韓流ならぬ印流ブームが到来しつつあるが、世界ではすでに確固たる地位を確立している。印流にはダイナミックなアクションや華麗な踊りとともに、時にバカバカしくかつナンセンスと思えなくもないアナログ世界が広がっている。少し前の有名な映画の一つに『3 Idiots』(日本語タイトルは 『きっと、うまくいく』)がある。私も知人から勧められて観たのだが、その奇想天外なストーリーに圧倒された。そしてデジタルとアナログが融合した奥深い世界観が示されていた。
 
ついにうみがめは、インドの文明と文化、そして昨今の経済事情に対する好奇心に揺さぶられ、また2世紀以降の東南アジアにおけるヒンドゥー文化の伝播に係る探求心を満たすため、旅に出ることを決意した。(つづく)
 
 

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この記事を書いたのは
鈴木 俊介(すずき しゅんすけ)
理事長


大学卒業後、民間企業に就職。その後国連ボランティアとしてカンボジアや南アフリカの業務に従事、様々なフィールド経験を通じて国際協力業界へのキャリアチェンジを決意。大学院で国際開発学を学び、ミャンマーにおける人間開発プロジェクトに従事した後、1999年、AMDAグループ入職。ベネズエラ、インドへの緊急救援チームを率いた他、ネパール、アンゴラ、インドネシアなどで様々な事業運営に携わる。2002年、AMDA海外事業本部長就任。2007年、AMDA社会開発機構設立。理事長就任。趣味は旅行、山羊肉料理の堪能。岡山のお気に入りスポットは表町商店街とオランダ通り。神奈川県出身。

 

 
 

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